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「ん………っ」
 直江の舌が犬歯のあたりばかり這い回るから、高耶は思わず顔を背けた。
「……からかってのんかよ」
 高耶は自分の八重歯の事をあまりよくは思っていない。
「好きだから」
「なにが」
「この、感触が」
 懲りない直江が顎を掴んで口を開かせてくるから、高耶は自らの舌を直江の口内に差し入れて、その侵入を防いだ。
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 駅前の待ち合わせ場所で橘を待っていると、
改札とは反対の方向からなんと女連れで現れたから、奥村は思わずぎょっとなった。
 しかも橘の好みとはだいぶ違う感じで、おさげの髪からいってもまだ少女に近い。
「じゃね♪また電話するわ♪」
 橘の腕に絡ませていた手を解いた彼女は、上機嫌で改札口へと吸い込まれていく。
「待たせたな」
「いや……。お前、随分趣味が変わったな」
 呆気にとられたようにまだ改札の方向を見ている奥村に、橘はきっぱりと言った。
「ああ。アレはそんなんじゃない」
「そんなんじゃないって……かわいい子じゃないか」
 まだ子供のような容姿だが、数年もすればきっとかなりの美人になる。
「……アレは男みたいなものだからな」
「は?おとこ?」
 なんだ、それは?男友達のようなものということだろうか?
 でも腕まで組んでいたのに??
「あまり深く考えるな」
 苦笑いを浮かべる橘の交友関係に、ますます謎を深める奥村だった。




「あの、すみません」
 繁華街で突然、ものすごく綺麗な女性に声をかけられて、奥村は思わずどきまぎしてしまう。
 けれど彼女は奥村の前を素通りして、一緒に歩いていた橘に話しかけ始めたからがっかりだ。
「君、もうどこかの事務所に入ってるのかな」
 やはりいつものスカウトだ。芸能事務所やらモデル事務所やら、橘と都内を歩いているとこういうことが多々ある。
「ええ。残念ですが」
 もちろん橘はそういった事務所などには入っていないが、断る口実としていつもこの手を使う。
「そっか、そうだよね。じゃあコレだけ貰ってくれる?」
 彼女は名刺を差し出してきた。
 素直に橘が受け取ると、首を傾げてニコっと笑う。
 その笑顔があまりに魅力的で、奥村は思わず見とれてしまった。
「何かあったら、いつでも連絡ちょーだいね」
 彼女はそう言って、長い髪を靡かせながら去っていった。
 その残り香にクラクラしながら、
「小遣い稼ぐつもりでやってみりゃあいいのに」
 奥村が呟くと、橘は受け取ったばかりの名刺を奥村に突きつけた。
「なら、お前がやればいい」
「無茶いうな」
 奥村は手渡された名刺に目を通す。○○モデルエージェンシーと印刷された名刺で彼女の肩書きはなんと代表取締役となっている。
「すげえ、あの人、社長じゃないか」
 あんなに若くて綺麗な社長がこの世には存在するんだな、と奥村は感心する。
「きっと、元モデルとかだな」
 奥村がそういうと、橘は、
「個人的なお付き合いなら、お願いしてもよかったな」
 呆気にとられてしまった。
 あんな美女とどうこうなろうという発想自体、奥村などには思いつかない。
「お前と俺とじゃ思考の次元が違いすぎるんだ」
 奥村が厭そうにいうと、
「今更気付いたのか」
 橘は笑って言った。




「おう、終わったか」
 午後の始業時間ギリギリで戻ってきた橘は、奥村の後ろの自席についた。
 この時期は、もう卒業だからとか、来年はもう受験だからとか、何かにつけて告白してくる子が多い。
 中には一晩だけの思い出を……なんて思い切ったことを言ってくる子もいるそうだ。
「一回でいいって言ってるんなら、付き合ってあげたっていいと思うけどなあ……」
 既に奥村は、橘の好みが年上の、しかもかなり狭い範囲に絞られていることを知っている。
 いわゆる、"ゴージャス"な女性だ。
「歳が違うとそんなに違うか?」
 そう訊く奥村に、歳の問題じゃない、と首を振った橘は、
「従順な人間を組み伏せて、何が楽しいんだ?」
 逆に訊き返してきた。
「お前……相当ゆがんでるな……」
 奥村は心底呆れるしかなかった。




 橘がカバンから取り出したものを見て、奥村はギョッとした。
 大人の嗜好品、タバコだ。
「お前っ!……いつからだ、そんなもの」
「これ以上、背が伸びても困るからな」
 慣れた様子で火を点ける橘の身長は、高校入学当時から止まることを知らず、
ついには先日185cmを超えてしまった。
 吸うか?と聞かれて奥村は首を振る。
 バレて停学なんてまっぴらだ。
 橘は挙動不審にあたりを見回す奥村を見やりながら、
「どうしても我慢できないってほどじゃあないんだがな」
と、のんきに煙をふかしている。
「なら、せめて制服ではやめろよ。臭いで気付かれるぞ」
 奥村が眼鏡の奥から睨みつけると、
「臭いを残すほど馬鹿じゃないさ」
 そう言って不適に笑って見せた。



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