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 突然宿毛へとやってきた高耶は、なんだか材料を調達して裏の森へと分け入っていった。
「ブランコ、ですか?」
「ああ」
 どうしても作るつもりらしいから手伝ってやると、程なくして大人ふたりくらいは余裕で乗せられそうなものができあがり、丈夫そうな木の枝に吊るしてやった。
「夢だったんだ、ブランコのある家に住むのが」
 何故に突然そんなことを言い出したのかわからないが、高耶はゆっくりと漕いでいるから、直江は余った材料の上に腰掛けてそれを眺める。
「ブランコがあれば、風のない日でも風が吹く」
 しばらく切っていない長い髪を靡かせて、高耶は言う。
「だから好きだったんだ。ほらうち、クーラー無かったし」
「暑い日はブランコに乗ってたんですか」
「そう。鎖が熱くなってるから気をつけないといけないんだよな」
 他愛の無い会話に、直江の心は満たされていく。
 ほどなくして、よっ、とブランコから飛び降りた高耶は、使った道具を片付け始めた。
 帰るつもりらしいから直江も残った材料を手に後に続くと、
「他のやつらには言うなよ。あいつら新しいものとみるとすぐに飛びつくから」
と言われた。
 自分だけひいきにされているようで少し嬉しくなる。
「ふたりだけの秘密ですね」
 浮かれた気分が顔に出てしまったのか、高耶が意外そうにこちらをみてきた。
「今更、そんなことで喜べるのか」
「ええ、嬉しいですね」
 開き直ってそういうと、しょうがないなと笑われた。
「馬鹿だな」
「馬鹿ですよ」
 それこそ今更、と真面目な顔で頷いてみせた。
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 見上げた空は青く澄んで、綿のような雲がゆるやかに流れている。
 強い太陽の日差しが、春の終わりを告げてくる。
 ゆっくりと歩きながら、何故かこれは夢なのだとわかっていた。
 それでも気持ち良さそうに飛んでいる大きな鳥があまりにもリアルで、
高耶は眼を細めてそれを眺めた。
 吹きぬける風があたたかくて、心までぽかぽかしてくる。
 ぐるりとあたりを見回すと、一面が草原のようになっていた。
 そしてその先には、空の色を映す海。どこかの岬のようだ。
『おにいちゃん!』
 突然、まだ小学生の美弥が腰のあたりにしがみついてきた。
『ねえ!はやくいこうよう!』
 指差す先にはいつの間にかに美弥のお気に入りだったブランコが置かれている。
 おしておしてとせがまれておしてやってるうちに、美弥が勝手に
こぎ始めてしまったので、高耶は空いているもうひとつのブランコに腰掛けた。
 身体をゆるく前後に揺らしながら、もう一度空を見上げる。
 こんな時間が訪れることは、きっともう二度と無い。
『おにいちゃん』
 自分のブランコを降りた美弥が、膝の上に乗ってきた。
 その美弥を乗せたままブランコをこぎながら、それでももし許されるものならば、
いつかこんなところに住めたらいいと、想いを巡らせた。




 こうやって距離を置いて遠くから眺めていると、高耶はまるで
手の届かないひとのように思えてくる。
 壇上から一言発するだけで、これだけの大人数の視線を奪って
逸らさせないカリスマ性。
 高耶の言葉のひとつひとつが直江の胸に迫る力を持っていて、
きっと誰もが同じように感じているのだと思うと、息苦しさでいても
たってもいられなくなる。
 彼は本当に自分のよく知るあの高耶なのだろうか。
 四百年もの間、ともに歩んできたあの景虎なのだろうか。
 早く傍らに行きたいと切に思う。
 今、嶺次郎や兵頭のいるあの壇上脇の場所。
 手を伸ばせばすぐ彼に届きそうなあの距離に、早く立ちたい。
 烈命星奪還を第一に考えるのならば高耶と離れている時間の多い
今のポジションはかなり好都合なのだが、いま遊撃隊に入れてやると
言われれば喜んで飛びついてしまいそうだ。
 無益な独占欲。
 けれど自分という男の最深部からじわりじわりと伝わってくる
この感情が、最良燃費のエネルギーであることもちゃんとわかっている。
 今は燃料を蓄えて、静かに待つときだ。
 少しでも火種があればすぐにでも大爆発を起こしてしまいそうな
危険物を制御するために、直江は静かに眼を閉じた。




「抱き枕でも買いますか」
 どんなに布団をかけなおしてやっても、その布団をはいで丸めて抱え込んでしまう高耶に、とうとう言ってみた。
「……おまえがいるからいい」
 まだ眠気の覚めない高耶はまどろみながら、今は直江を抱き枕代わりにしている。
「私がいないとき用に」
 そう言ったら、
「ずっといればいい」
と答えが返ってきて、このひとは、と苦笑いを浮かべるしかなかった。




 鎖骨から首筋へと唇を這わせると、その先の行為を期待した高耶の身体が甘く絡み付いてくる。
 じらすように少しずつ舌を這わせていくと、毒を含んだ高耶の汗がピリ、と舌に痛い。
 とうとう耳朶に辿りついて、甘く歯を立てると、
「は………っ」
 高耶の唇から吐息が漏れた。
 下腹部で触れ合っている互いの性器がますます硬く張りつめる。
 そろそろ頃合だ、と身体を起こそうとすると、高耶が離れようとしなかった。
 高耶は耳をいじられるのが好きなのだ。
「もっと」
 潤んだ瞳と熟れた唇でそう囁かれてしまっては逆らえない。
 最終的に高耶が挿入をせがむまで、丁寧に耳を可愛がってやった。



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