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 夜だというのに、外が何だか騒がしい。
 気になった直江が覗きに行ってみると、隊士たちが丸座になって宴会をしていた。
 その中に見慣れない顔がいる。
 これまた随分と若く、高校のものらしき制服を着ている。
「新入りか?」
 近くに座っている隊士に尋ねると、裏の学校でふらふらしてたやつ(霊)を連れてきた、とのことだ。
「憑坐は?」
「それもその学校にいよった奴じゃ」
「……………」
 それじゃあ誘拐だろう、と思っていると、
「あいつ、若い内にのうなったき、酒も飲みよったことがない言うんじゃ」
 隣にいた隊士が何だか言い訳がましいことを言ってきた。
 ただそれを口実にして、単に酒盛りがしたかっただけではないかと疑いたくなる。
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 高耶が会うなり、左胸に触れてきた。
 一瞬どきりとしたが、勝手に内ポケットからタバコを取り出される。
「中川に怒られますよ」
 あの男はタバコのにおいに敏感です、と実感を込めて言うと、高耶は笑った。 
「怒られてんのか」
「ええ、いつも」
「まるで先公だな」
 煙草を燻らせる高耶の仕草は、なんだかとても懐かしい。
「おいしいですか」
 そう聞くと、何を思ったのか高耶は、
「おまえの味だ」
と、言った。
───……?」
 具体的にどこのだろう、などと考えていたらすぐに返事が出来なくて、妙な間が生まれてしまう。
「で、おいしいんですか?」
「………知るかよ」
 向こうを向いてしまった高耶の頬は、少し赤く見えた。
 しばらく経ってから。
「別にまずくはねーよ」
と、フォローしてくれた。
「……どうも」
 相変わらずそっぽを向いたままの高耶に、直江は苦笑いを浮かべた。




 卯太郎と楢崎が、建物裏でなにかこそこそとやっている。

「買ってきたぜ」
「わしは吸わない言っちゅうが~」
「いいから、ほら」
「げほっげほっげほっ」
「やっぱお子様には早かったかあ」
「ううぅ、にがいぃ……」
「げっ!!誰か来るッッ!!」
 慌てて火を消して隠してはみたものの、たぶん匂いですぐにばれてしまうだろう。
 やがて現れたのは、ふたりが尊敬してやまない仰木高耶だった。
「おうぎさん……」
「なにやってる」
「ち、違うんですって、これは……」
 言い訳をするふたりを、仰木隊長は懐かしいものでも見るような目だ。
「………ほどほどにな」
 結局、それだけ言って去っていった。
「仰木さんてば、あきれちょった……」
「バカ。あの人、根性焼きの跡があんだろ。あれで元ヤンだぜ」
「もとやん……?」
「今度、アニキって呼んでみようかなあ」
 そう呟く楢崎に、
「あにき……?」
 卯太郎は更に疑問顔になった。




「ここは禁煙です」
 額に怒りマークをつけながら、中川は言った。
「医務室でタバコを吸うなんて、どうかしてますよ!」
 怪我の手当てにやってきた直江は、中川がいないのをいいことに一服してたところだったのだ。
「引火したら危険な薬品だってあるのに!」
 どんなに怒っても眉を上げるだけの直江に、中川あきれた声を出した。
「聞いてます?」
 ところが直江はどこ吹く風で、
「彼はどうしてる」
などと聞いてきた。
 包帯を変えて欲しいとかなんとか言いながら、結局高耶の様子を聞きたいだけなのだ。
「…………はぁ」
 大きくため息をつきながら、中川は出来る限り詳しく、高耶の様子を話してやった。




「はあああぁぁぁぁ~~~~~」
 潮が、大げさな身振りで目の前に置かれた小石を《力》で動かそうとしている。
 声を出せばいいってものでもないのだが、あんまり言ってもアレなので放っておいた。
 他にも数人、新入りの隊士たちが《力》の訓練を夢中になってやっている。
 高耶もやるように言われてはいるが、お目付役の隊士がいないのをいいことに、新入りの輪から外れてそれを眺めていた。
 遠い昔、千秋のアパートで似たようなことをやらされた記憶がある。
 懐かしく思いつつも、付随して色々なことを思い出してしまい、気が重くなった。
「寒い中ようやりゆう……」
 気がつくと、すぐ隣に嶺次郎が銜え煙草で立っていた。
 久しく嗅いでいなかった匂いに、やはり昔の記憶が刺激される。
 昔はよく、隠れて吸ったものだ。
「くれよ」
 そう言うと、嶺次郎はおっという顔をした。
「草間さんにはクサいちゅうて嫌がられちょる」
 仲間が出来たとばかりに、嬉しそうに差し出してきた。
───……」
 肺の中に煙を吸い込むと、久しぶりの煙草はやはり懐かしい味がした。



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