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『 問答 02 』≪≪    ≫≫『 手段 』   
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 照弘自身、その人物とは二度ほどしか面識がなかった。
 しかも二度とも彼の方が橘の家にやってきた為、仙台の彼の家を訪ねるのはこれが初めてだ。
 冷房のよく効いたタクシーの車内で、照弘は隣に座る小さな弟を見た。
 無表情の奥には一体どんな感情が秘められているのか。見知らぬところへと向かう不安か。それともそんな普通の子供が抱くような感情は、微塵も浮かびはしないのだろうか。
 父が弟を仙台へ連れて行くと言い出した時、照弘はその役目は自分に任せて欲しいと言わずにはいられなかった。父とふたりきりであれば、弟は嫌なことでも逆らわずに言うことを聞くだろう。けれど自分とふたりだけなら、多少は甘えることが出来るかもしれない。そう思ったからだ。
 運転手が車を停めたその家は、家主の厳格な意思が構えに表れている、そんな家だった。
 見るからに心優しそうな奥さんに案内されて後を着いて行くと、畳敷きの部屋の真ん中、やや奥寄りの場所に、国領慶之助は坐していた。
 父が若い頃から世話になっているというその男性は、まずは照弘と視線を結んでひとつ頷くと、次に友人の子供に対する愛情と、その子の病を何とかしてやりたいという意欲と、何とかしてやれるという自信に溢れた瞳で弟を見た。
 たった数秒の、言葉も発さないその仕草だけで、
(この人なら弟を何とかしてくれるかもしれない)
 照弘は、そういう期待を感じずには居られなかった。
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