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※「uncommon life」15の後

 仮眠室の扉を開けると、直江は横になっているだけで眠ってはいなかった。
「高耶さん」
 すぐに身体を起こそうとするから、それを制してベッドに膝をつく。
 そのまま、直江に被さるようにして高耶も横になった。
────どうかしました?」
 胸に顔をつけて目を閉じていると、大きな掌が頭に乗せられて、伺うように顎の方へ滑ってくる。
────……」
 しばらくされるがままになっていた高耶だったが、動いていた手が首元へと落ち着くと、それをどかして上体を起こした。
 目の前には、よく見慣れた顔。
 この顔が持つたくさんの表情を誰よりも多く見てきたし、自分もまた、様々な表情を何よりも多くこの鳶色に映してきた。
 それなのに。
(まだ欲しいのか、オレは)
 ゆっくりと顔を近づけて、静かに唇を重ねた。
(………オレのものだ)
 鎖は、壊したはずなのに。
 重くて、痛くて、美しくて、官能的で、完全だった鎖。
 あの鎖はもういらない。
 自分はこの男をちゃんと信用できてる。不安なんてない。
 なのに時々、この男はオレのものだと周囲に誇示したくなるのは何故なのだろう。
 高耶の口付けに反応したらしく、直江は唇を離すと身体の上下を入れ替えた。
 重い身体に圧し掛かれながら、高耶は問いかける。
「おまえは、誰のものだ」
 一瞬、目を見開いた直江だったが、すぐに微笑を浮かべた。
「あなたのものですよ」
 望みどおりの言葉が、心を満たしていく。
「もっと、言えよ」
「………全部、あなたのものだ」
 耳の近くを這う感触に身体を震わせながら、高耶は再び瞳を閉じた。
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※「uncommon life」13の合間

 チョコレートごと食べてしまうような勢いで、高耶は舌を貪った。
 直江のほうも、引き寄せた腰ごと持ち上げて強引に壁際へ押しやると、力の手加減なしで身体を押さえつける。
 せっかくの高級菓子が箱ごと地面に落ちても、ふたりとも見向きもしなかった。
「白状したらどうです」
 高耶の顎を掴んだ直江は、返事を待たずに唇を寄せて口内を舌でかきまわす。
「ンンッ────ッ……!」
────わざとでしょう?」
「……何の話だ」
 田所が見ているとわかっていてこんなことをしたのだろうと、直江は言った。
「他人と親しくされるのが嫌?」
 着衣を捲りあげて高耶の上半身を露にすると、そこにある突起を舌で弄る。
「ッ────くッ……!」
「会うたびに睨み付けたりして。怖がっていましたよ」
「………そんなこと、するわけない……っ」
 熱い息を吐き出しながら直江の髪を掴んだ高耶は、そのまま頭を引っぱり上げると、瞳も閉じずに噛み付いた。
「んッ……んッ……ンンッ────ッはァ……っ」
「うそつき」
 当たり前のように下半身に触れてくる直江の手に、高耶の身体は上気してしなる。
「アア……ッ!うぬぼれるのも……大概にしろ……ッ」
 そう言いながら、直江のベルトをもどかしそうに引っ張った。




 見知らぬ生徒に殴られはしたものの、かわいい女子達が慰めてくれた。
 人身事故を起こした(?)が、大事には至らずにすんだ。
 家が全焼する火事で全財産を失ってしまったが、命だけは助かった。
 ありえないくらい運の悪い事故に遭遇したが、数週間の入院だけですみそうだ。
 松本市内の病院の一室で、千秋はぼーっと外を眺めながら考えている。
 運がいいのか、悪いのか。
 とそこへ、四百年来の同僚がやってきた。
「災難だったな」
 見慣れたダークスーツ姿の直江は、何故かイギリス文学界の巨匠の翻訳本を手渡してきた。
 見舞いの品だという。
「好きだっただろう?」
 こういう本人でも忘れていることを、この男は本当によく覚えている。
「………懐かしいな」
 男の気遣いに内心涙しながら、本のページをパラパラと捲っていると、直江は気の毒そうにギブスを見てきた。
「大丈夫なのか」
「………まあな」
 いつもだったら人の心配をしている場合か、と言ってやるのだが、今回ばかりは返す言葉もない。
「厄年にはまだ早いだろうに」
 直江は腕を組んで偉そうに言った。
「俺にうつすなよ」
────……」
 その一言で、千秋の感傷はどこかに吹っ飛んでしまった。
 自ら災厄に飛び込んでいき、しかも絶対に周囲を引きずり込むことを欠かさない直江に言われてしまうとは。
 千秋はがっくりとうなだれるしかなかった。
「……お前にだけは言われたくなかったよ」




 今日は何かある。絶対何かある。
 たぶん厄日というやつだ。
 心優しい我らが大将、仰木高耶大先生が自宅に泊めてもいいというので、キズモノになってしまった恋人で向かうことにした。
 途中、古びた酒屋に停車して、アルコールを調達をする。
 こんな日は酒だ。飲まなきゃやってられない。
 ただ、その酒屋が随分古い店構えだったから、どんな商品が並んでいるのか多少心配しつつも入り口の前に立つ。ところが。
「上!うえっっ!」
 通行人の叫び声が後ろから聞こえて、千秋はハッと頭上を見上げた。
 やけに大きくて古びた看板が、いま、まさに、落ちてこようとしている。
「くぅっっっっ!!」
 とっさに横っ飛びにとんで、間一髪。
   ずしーーん
 ………避けきれなかった。
 頭をかばって倒れこんだ千秋の両足の上に、ひどく重い看板が、大きな音を立てて着地した。
 土ぼこりが静まるのを待って足をひっぱりだそうとしてみたが、両足ともなんだか感覚がない。
 こんなことがあっていいのだろうか。
 何もかもが信じられない状況の中、千秋は天を仰いで呟いた。
「ありえねぇ……」




 千秋が泣きながら、本当に少しだけ涙をにじませながら帰宅すると、なんとアパートから轟々と火が出ていた。
 大量の煙が立ち込める中、消防団員たちが忙しそうに走り回っている。
 唖然と立ち尽くす千秋の元に、大家の奥さんが駆け寄ってきた。
「よかったあああっ、あなたまだ部屋にいるんじゃないかって心配してたところだったのおおっ」
 半分パニックになって泣きながらしがみついてくる。
 よかった、本当によかったと何度も言うものだから、思わず本音が口をついて出てしまった。
「いや……全然よくないんスけど……」



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