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『 夏生まれ 』≪≪    ≫≫『 バレンタイン・キッス 』   
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※「uncommon life」15の後

 仮眠室の扉を開けると、直江は横になっているだけで眠ってはいなかった。
「高耶さん」
 すぐに身体を起こそうとするから、それを制してベッドに膝をつく。
 そのまま、直江に被さるようにして高耶も横になった。
────どうかしました?」
 胸に顔をつけて目を閉じていると、大きな掌が頭に乗せられて、伺うように顎の方へ滑ってくる。
────……」
 しばらくされるがままになっていた高耶だったが、動いていた手が首元へと落ち着くと、それをどかして上体を起こした。
 目の前には、よく見慣れた顔。
 この顔が持つたくさんの表情を誰よりも多く見てきたし、自分もまた、様々な表情を何よりも多くこの鳶色に映してきた。
 それなのに。
(まだ欲しいのか、オレは)
 ゆっくりと顔を近づけて、静かに唇を重ねた。
(………オレのものだ)
 鎖は、壊したはずなのに。
 重くて、痛くて、美しくて、官能的で、完全だった鎖。
 あの鎖はもういらない。
 自分はこの男をちゃんと信用できてる。不安なんてない。
 なのに時々、この男はオレのものだと周囲に誇示したくなるのは何故なのだろう。
 高耶の口付けに反応したらしく、直江は唇を離すと身体の上下を入れ替えた。
 重い身体に圧し掛かれながら、高耶は問いかける。
「おまえは、誰のものだ」
 一瞬、目を見開いた直江だったが、すぐに微笑を浮かべた。
「あなたのものですよ」
 望みどおりの言葉が、心を満たしていく。
「もっと、言えよ」
「………全部、あなたのものだ」
 耳の近くを這う感触に身体を震わせながら、高耶は再び瞳を閉じた。
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