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「ああ~っ!誰でもいいからチューしてえ~~っ!」
 ファストフード店でハンバーガーにかじりついていたら、矢崎が突如、奇声をあげた。
「はずかしいからやめろよ~」
 隣から譲が、ポテトをつまみつつたしなめる。
 矢崎は高耶に、ヤング誌のグラビアを見せてきた。
「みろよ、この子!やわらかそ~~~~」
 確かに、ふっくらとした唇も、少女らしいゆるめの二の腕も、触れれば確実にプニプニしていそうだ。
「想像しただけで……ヤバいヤバい」
 矢崎はテーブルに突っ伏して、わざとらしく前かがみになる。
 中学生かよ、と譲は笑いながら突っ込んだ。
「仰木、お前はたまってねーの?」
「ん?………まあ、それなりに」
 以前だったら、譲を差し置いてふたりで盛り上がるような話題かもしれない。
 しかし矢崎には悪いが、今の自分はこの子で満足できる自信がない。
「どうしたの、高耶。おなかでも痛いの?」
「………柔らかいだけじゃ、駄目なんだよな」
「え?なに?」
「いや、なんでもない」
 急に脳内がピンク色に染まり始めたから、慌ててそれをかき消した。
(サイアクだ……)
 危うく高耶も、前かがみになるところだった。
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「それより、出来るのか。あいつがいなくても」
 田所が逝ってしまったことにより、装置の開発にはかなり支障がでるだろう。
 それは間違いない。
「こんなところで、躓いてる場合じゃないだろう?」
 赤鯨衆は、戦闘力至上主義だ。
 田所の抜けた分、ますます直江が戦闘に参加する機会が減ってしまう。
 高耶の傍らへの道のりが遠のくとも思えるが、違う部分での地位向上という効果は期待できると思っていた。
 つまり、いざ小源太と《力》で対決となれば負ける気はしない直江だが、さすがにそれをしたところですぐに小源太の地位に取って替われるという訳ではない。室戸のようなルールがあれば別だが、上に行くためには、根回しやら時間やらが必要になってくる。
 遊撃隊に空きがなく幹部陣も健在な現状では、どんなに戦闘で効果をあげても、入れる隙間がないのだ。
 ならば、自分に戦闘力以外の付加価値をつけることも、高耶の傍らへの道に繋がっているのではないか。直江はそう踏んでいた。
 まあそれでも、田所の不在が痛手であることに変わりがないが。
「逝かせるべきじゃなかったんじゃないのか」
 高耶は厳しく追求する。
 けれど直江には、もうひとつの真意があった。
「"ここ"が前に進もうとする魂を妨げる場所であってはならないでしょう」
 驚いた瞳で、高耶は直江を見た。
「田所が逝くというのなら、逝かせてやるべきだと思ったんです」
「直江………」
 しばらく直江を見つめていた高耶は、
「おまえは、そんなことはどうでもいいんだと思ってた」
と言って、そっと俯いた。
「………ええ、本当はどうでもいいんです。そんなこと」
 高耶の傍に寄った直江は、俯いた顔を持ち上げた。
「この男は、あなたのことしか考えていない」
 一刻も早く傍らへ。自分は、あなたの隣に立たなければ意味がない。
 けれど田所を引き止めてしまっては、高耶の隣にいる資格を失ってしまうような気がしたのだ。
 心はいつも、高耶の元にある。
 あなたの傍へ行く。
 全てはそのために。
 そのことを伝えようと、直江は高耶に唇を寄せた。




「新たな変換装置の生産が決まった」
「じゃあ」
「ああ。次は一度に三台だ」
 今回の作戦で壊れてしまった装置の修理に加えて、新たなものを開発することになったのだ。
「でも何故、急に三台も」
 そもそも変換装置の開発が急ピッチで進められたのは、霊波塔奪還作戦にどうしても装置が必要だということが高耶の念頭にあり、密かに直江に指示が出されていたからであって、作戦が終了したことにより装置の必要性は失われてしまったはずだ。
「いや、この先も生産は続ける」
「………楚体もないのにですか?」
 首を傾げる直江に、高耶は言った。
「装置があれば、例えば大停電があった時、霊力を電力として供給することも可能になるだろう?」
「ええ、原理としてはそうですが………霊力源がありません」
「もちろん、それが確保出来た場合にだ」
 もし四国全土規模の停電が起きたとしたら、それこそ田所の言うように四国結界の霊力を利用でもしない限り、とてもまかなえるものではない。装置にだって、かなり改良が必要だ。
 高耶は何故急に、そんなことを言い出したのか。
「それが今すぐ、必要だというんですか?近々、大地震が起こるとでも?」
「いや───。あくまでも備えとして、だ」
「………ならいいんですが」
 何だか釈然としない直江は、眉をひそめた。




 何でそんな話になったのかわからない。
 けど潮はこう言った。
「俺はやっぱ海だな。なんてったって"潮"だし」
 すると兵頭が言った。
「隊長は山が好きじゃと言うちょりましたね」
「……ああ」
 対抗するように潮が声を大きくする。
「俺も山は好きだぜ?じゃなきゃバックパッカーなんてやってないし」
 鼻で笑った兵頭相手に、潮が更に突っかかっていって、高耶そっちのけで騒ぎ出す。
 その横から、直江が視線を送ってきた。
「何だ」
「まあ、長野育ちですからね」
「まわりは山ばっかの田舎もんって言いたいんだろ。じゃあ何だ。お前は餃子か」
「栃木も内陸県なんですけどね」
 それでも私は海が好きです、と直江は言った。
「海にはあなたとの思い出がたくさんありますから」
「……山にだってある」
 言い張る高耶に、直江は微笑った。




 日の出時間も、少しずつ早くなる。
 先程まで朝焼けを眺めていた高耶を、今は目に痛いくらいの陽光が照らしていた。
「あなたは太陽がよく似合う」
 夏に生まれたせいだろうか。
 陽に当たるのは好きだ、と高耶は言った。
 今は冬の名残りのような肌をしているが、きっと夏になれば綺麗な小麦の色になるだろう。
 でも、とその肌に触れながら思う。
 まだ少し、季節が早い。
 直江は、着衣をつけていない高耶の肩から、毛布をかけてやった。



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