昔から、規律と規範がモットーの男だった。
自分で決めたルールを忠実に守る。
使命第一、黒を纏う、宿体の肉親を大切にする。
その他細々としたルールが数多くあった。
が、時折その全てを無視して暴走する。
そういう時、改めて気づかされたものだ。
作られたルールは全て、その暴走を防ぐためのものだったのだと。
直江が自殺を図った。
しかも初めてのことではないらしい。
色部から連絡を受けて、綾子は直江の入院する病院へと向かった。
が、まだ小学生にあがったばかりの綾子がひとりで訪れられる訳はなく、色部に手を引かれてやってきている。
面会謝絶のプレートが掲げられた病室の扉の前には、疲れきった表情の女性とその夫らしき男性が座っていた。
ふたりの隣に立っていた若者が色部と綾子に気付いて、女性の方に声をかける。
「佐々木と申します」
色部が挨拶を始める横で、綾子は病室の大きな扉に対峙した。
ドアノブに手をかけると、背後から制止する声が聞こえたが、構わずそのまま扉を開けた。
病室へ入ると、ひとつだけある窓のカーテンが開けっ放しで、月の光が部屋の隅々まで照らしていた。
そうっとベッドに近寄ると、青白い顔でベッドに横たわる少年がいる。
白い手に両手でそっと触れた。
その手は、ひどく冷たい。
「なおえ」
声をかけると、うっすらと瞳が開かれた。
しばらくさまよった視線が綾子を捉える。
「───晴家?」
今生では、これが初対面となる。
綾子はこくりと頷いた。
「………すまない」
直江の眦から、透明な液体が一筋つたった。
何も言うことがなくて、ただ首を横に振った。
自分達は自殺を図ったところで死ねるわけじゃない。
それでも自傷せずにはいられない直江の心情は、察するに余りあるものがある。
景虎の行方を聞かされてから数ヶ月、自分はずっと立ち直れずにいたが、直江はもう何年もそのことで苦しんできたのだ。
直江の為にも、自分ががんばらないといけない。
「からだはだいじにして」
触れた手に力をぎゅっと込めた。
「せっかく、わたしごのみなんだから」
無理やり笑顔を浮かべていうと、直江も疲れ切った笑みを見せた。
自分で決めたルールを忠実に守る。
使命第一、黒を纏う、宿体の肉親を大切にする。
その他細々としたルールが数多くあった。
が、時折その全てを無視して暴走する。
そういう時、改めて気づかされたものだ。
作られたルールは全て、その暴走を防ぐためのものだったのだと。
直江が自殺を図った。
しかも初めてのことではないらしい。
色部から連絡を受けて、綾子は直江の入院する病院へと向かった。
が、まだ小学生にあがったばかりの綾子がひとりで訪れられる訳はなく、色部に手を引かれてやってきている。
面会謝絶のプレートが掲げられた病室の扉の前には、疲れきった表情の女性とその夫らしき男性が座っていた。
ふたりの隣に立っていた若者が色部と綾子に気付いて、女性の方に声をかける。
「佐々木と申します」
色部が挨拶を始める横で、綾子は病室の大きな扉に対峙した。
ドアノブに手をかけると、背後から制止する声が聞こえたが、構わずそのまま扉を開けた。
病室へ入ると、ひとつだけある窓のカーテンが開けっ放しで、月の光が部屋の隅々まで照らしていた。
そうっとベッドに近寄ると、青白い顔でベッドに横たわる少年がいる。
白い手に両手でそっと触れた。
その手は、ひどく冷たい。
「なおえ」
声をかけると、うっすらと瞳が開かれた。
しばらくさまよった視線が綾子を捉える。
「───晴家?」
今生では、これが初対面となる。
綾子はこくりと頷いた。
「………すまない」
直江の眦から、透明な液体が一筋つたった。
何も言うことがなくて、ただ首を横に振った。
自分達は自殺を図ったところで死ねるわけじゃない。
それでも自傷せずにはいられない直江の心情は、察するに余りあるものがある。
景虎の行方を聞かされてから数ヶ月、自分はずっと立ち直れずにいたが、直江はもう何年もそのことで苦しんできたのだ。
直江の為にも、自分ががんばらないといけない。
「からだはだいじにして」
触れた手に力をぎゅっと込めた。
「せっかく、わたしごのみなんだから」
無理やり笑顔を浮かべていうと、直江も疲れ切った笑みを見せた。
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