橘不動産・東京支部の事務所は、とあるビルの上階、かなり奥まった場所にある。
その為に、ふらりとアポなしで立ち寄るといった客は殆どなく、大抵が確固たる目的を持って訪れる。
「こんにちわぁ~」
その女性は、入ってくるなり大声をあげた。
だから、どこかの業者さんかな、と思ったら───。
「こんにちは………」
全然違った。
革のジャケットにぴったりとしたジーンズ。
ラフな恰好で化粧も薄めだが、顔立ちが華やかだから絶対的に人目を引く。
「何か御用ですか?」
たぶん誰かに個人的な用事があってやってきたのだろうとあたりをつけながら、話しかけてみたところ、
「えっと、門脇といいますけど、なお……じゃない、橘義明、います?」
思わぬ名前を言われて、思わず笑顔が引き攣った。
「───少々お待ちください」
きっと社長の名前を言うだろうと予想していたのに、橘さんのお客様だなんて。
「ああ、わかりました」
来客を伝えると、橘さんは軽く頷いた。
「ちょうどお昼なんで、少し出てきますね」
上着を颯爽と着込んで、女性の待つ受付へと向かう。
もしかして、恋人にしか見せないようなハニカミスマイルでもするかしら、と思って見ていると、これまた予想外の表情が見られた。
「昼時を狙って来ただろう」
ちょっと不機嫌な声で、渋いものでも食べたような難しい顔だ。
「お昼休みの方がいいかなって気を使ってあげたのよ」
女性のほうはそう言い訳をしながらも、
「で、フレンチ?イタリアン?」
と瞳を輝かせている。
「駅向こうまでいく時間はない」
「えええええ~~~!!!」
「………声が大きい」
「じゃあ、下の店で我慢するわよっ」
プンプン、と頬を膨らませながら、女性は言った。
「うなぎか……」
渋い表情のまま、橘さんと女性は事務所を出て行った。
その為に、ふらりとアポなしで立ち寄るといった客は殆どなく、大抵が確固たる目的を持って訪れる。
「こんにちわぁ~」
その女性は、入ってくるなり大声をあげた。
だから、どこかの業者さんかな、と思ったら───。
「こんにちは………」
全然違った。
革のジャケットにぴったりとしたジーンズ。
ラフな恰好で化粧も薄めだが、顔立ちが華やかだから絶対的に人目を引く。
「何か御用ですか?」
たぶん誰かに個人的な用事があってやってきたのだろうとあたりをつけながら、話しかけてみたところ、
「えっと、門脇といいますけど、なお……じゃない、橘義明、います?」
思わぬ名前を言われて、思わず笑顔が引き攣った。
「───少々お待ちください」
きっと社長の名前を言うだろうと予想していたのに、橘さんのお客様だなんて。
「ああ、わかりました」
来客を伝えると、橘さんは軽く頷いた。
「ちょうどお昼なんで、少し出てきますね」
上着を颯爽と着込んで、女性の待つ受付へと向かう。
もしかして、恋人にしか見せないようなハニカミスマイルでもするかしら、と思って見ていると、これまた予想外の表情が見られた。
「昼時を狙って来ただろう」
ちょっと不機嫌な声で、渋いものでも食べたような難しい顔だ。
「お昼休みの方がいいかなって気を使ってあげたのよ」
女性のほうはそう言い訳をしながらも、
「で、フレンチ?イタリアン?」
と瞳を輝かせている。
「駅向こうまでいく時間はない」
「えええええ~~~!!!」
「………声が大きい」
「じゃあ、下の店で我慢するわよっ」
プンプン、と頬を膨らませながら、女性は言った。
「うなぎか……」
渋い表情のまま、橘さんと女性は事務所を出て行った。
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