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『 前かがみ 』≪≪    ≫≫『 大停電 』   
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「それより、出来るのか。あいつがいなくても」
 田所が逝ってしまったことにより、装置の開発にはかなり支障がでるだろう。
 それは間違いない。
「こんなところで、躓いてる場合じゃないだろう?」
 赤鯨衆は、戦闘力至上主義だ。
 田所の抜けた分、ますます直江が戦闘に参加する機会が減ってしまう。
 高耶の傍らへの道のりが遠のくとも思えるが、違う部分での地位向上という効果は期待できると思っていた。
 つまり、いざ小源太と《力》で対決となれば負ける気はしない直江だが、さすがにそれをしたところですぐに小源太の地位に取って替われるという訳ではない。室戸のようなルールがあれば別だが、上に行くためには、根回しやら時間やらが必要になってくる。
 遊撃隊に空きがなく幹部陣も健在な現状では、どんなに戦闘で効果をあげても、入れる隙間がないのだ。
 ならば、自分に戦闘力以外の付加価値をつけることも、高耶の傍らへの道に繋がっているのではないか。直江はそう踏んでいた。
 まあそれでも、田所の不在が痛手であることに変わりがないが。
「逝かせるべきじゃなかったんじゃないのか」
 高耶は厳しく追求する。
 けれど直江には、もうひとつの真意があった。
「"ここ"が前に進もうとする魂を妨げる場所であってはならないでしょう」
 驚いた瞳で、高耶は直江を見た。
「田所が逝くというのなら、逝かせてやるべきだと思ったんです」
「直江………」
 しばらく直江を見つめていた高耶は、
「おまえは、そんなことはどうでもいいんだと思ってた」
と言って、そっと俯いた。
「………ええ、本当はどうでもいいんです。そんなこと」
 高耶の傍に寄った直江は、俯いた顔を持ち上げた。
「この男は、あなたのことしか考えていない」
 一刻も早く傍らへ。自分は、あなたの隣に立たなければ意味がない。
 けれど田所を引き止めてしまっては、高耶の隣にいる資格を失ってしまうような気がしたのだ。
 心はいつも、高耶の元にある。
 あなたの傍へ行く。
 全てはそのために。
 そのことを伝えようと、直江は高耶に唇を寄せた。
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