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『 How's it taste? 02 』≪≪    ≫≫『 女鳥羽川 』   
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 顔を上げると睨み付ける潮がそこにいた。
 兵頭も細い眼になって見つめ返す。
「何の用じゃ」
「おまえ………っ」
といったあと、気持ちを落ち着かせるためか、肩で大きく呼吸したあと暫く間を置いた。
 また、しょうもない言いがかりでもつけてくるのだろうとタカをくくっていた兵頭の耳に聞こえて来た言葉は、想定外のものだった。
「仰木と……キスしたんだって?」
「………ハァ??」
 思わず声が裏返ってしまった。

□ □ □

 ───ウマかった
「くっそおおお~~~~~!!」
 兵頭の、"キスの感想"が頭から離れない。
 潮は腸が煮えくり返る思いだった。
 にっくき兵頭に最愛の仰木高耶の唇を奪われたのだから。
(美味いと巧い、どっちだよっ!)
 大体橘は何やっていたんだと思うのだが、兵頭の怪我を理由に高耶が報復を止めたのだという。
 じゃあ何だアレか。俺が怪我してりゃあ、お前を押し倒してもやり返さねーのか??
 兵頭を理由無く殴っても、俺が怪我してたらお前は俺の味方になってくれるのか??
 だんだん脱線し始める思考のまま、仰木高耶の部屋へと潮は走る。
 そして、勢いよく扉を開けた。
「仰木っ!兵頭とチューしたってほんとか!?」
 飛び込んできた潮に、高耶が白けた視線を寄越す。
「何バカなこといってるんだよ」
「だってよう!許せねえよ、兵頭のやつ!お前と……お前と……ッ」
 握った拳をブルブルと震わせている潮に、高耶は淡々と言った。
「あんなのはキスじゃない」
「じゃあなんだよッ」
「唇と唇がぶつかっただけだ」
「だから、それをキスっていうんじゃないのかよっ」
 叫んだ潮に、高耶は意味深な事を言った。
「"キス"はそんなもんじゃないだろ?案外お子様なんだな」
 高耶の妖しげな笑みに動悸を激しくしながら、潮はなんとか言葉を紡ぐ。
「じゃ、じゃあどんなのがキスっていうんだよ」
「大人になったら教えてやるよ」
軽くあしらわれて、潮の中で何かがキレた。
「いっ、いま教えてくれよ~~うっっ!」
 背後から飛びついて高耶を押し倒し、そのまま唇に唇を押し付けた。
しばらくの間その体勢のままもつれ合っていたふたりだったが、
「ヴゥゲェッ!!」
 耐えかねた高耶に股間を蹴り上げられて、潮の身体がやっとはがれた。
「気が済んだか」
 まるでリングから下りたばかりのボクサーのように、高耶が去っていく。
 後には放心状態の潮が残された。
「ウ、ウマい……」
 潮の頬は、何故か赤い。

□ □ □

 その頃医務室では、保健室にたむろする高校生さながら、噂話に花を咲かせる隊士達がいた。
「聞いたか。隊長と兵頭さんが、接吻したっちゅうハナシ」
「聞いた、聞いた。隊長の毒は大丈夫なのかのう」
「蠱毒薬さえ飲んどれば平気らしい 」
「兵頭さんとするんなら……わしにも可能性があるかもしれん」
「べこのかあ。んな訳あるか」
「いや、武藤のヤツがおんなしことを考えたんじゃ」
「やったのか!」
「なんでもとろけるようだったらしい」
「く~~~~たまらんのう」
 怪我の手当てに訪れていた橘が明らかに不機嫌になっていくから、中川は慌てて隊士たちを追い出した。
「全く大変な時だというのにねえ……って、あれ?橘さん?」
 何も言わずにいなくなってしまった橘に、不吉な予感を覚えた中川だったが……。
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