試験さえ終わってくれれば、照弘も夏休みに入る。
スケジュール帳を山登りやら海水浴やら埋め尽くして、夏を満喫するつもりマンマンの照弘だったが、その前にひとつ、行かねばならないところがあった。
知り合いの寺に預けられている、義明のところだ。
訪ねるのは、初めてだった。
いかつい顔をした住職が、仏頂面で迎えてくれた。
「大人でも音をあげるというのによくやっているよ」
照弘たちの父親とは十年来の仲であるその人は、しみじみそう言った。
めったに人を好く言う人ではないから、余程感心しているのだろう。
「ちょうどいい。これを持っていってやってくれ」
手渡されたのは、今朝方に母が持ってきたという弁当だった。
毎日朝晩、欠かさず差し入れに来ているらしい。
本堂にいると言われて行ってみると、経でもあげているかと思ったのに何と雑巾がけをしていた。
「義明」
「……にいさん」
「どうだ、元気にしてるか」
声をかけると、弟は手を休めて正座で向き直ってくれた。
「辛くないか」
「……………」
問いかけても返事が返ってこないから、
「愚問だな」
仕方なく自分で答える。
話題を探して
「それも修行の一環か?」
雑巾がけのバケツを指し示すと、
「からだをうごかしていたほうが、らくなんです」
幼い声で敬語を紡ぐ。
「だからよるは」
無表情なのは、感情を表に出さないようにしているからだ。
「あたまがはれつしそうになります」
あまりの痛々しさに、照弘の心まで破裂しそうになった。
スケジュール帳を山登りやら海水浴やら埋め尽くして、夏を満喫するつもりマンマンの照弘だったが、その前にひとつ、行かねばならないところがあった。
知り合いの寺に預けられている、義明のところだ。
訪ねるのは、初めてだった。
いかつい顔をした住職が、仏頂面で迎えてくれた。
「大人でも音をあげるというのによくやっているよ」
照弘たちの父親とは十年来の仲であるその人は、しみじみそう言った。
めったに人を好く言う人ではないから、余程感心しているのだろう。
「ちょうどいい。これを持っていってやってくれ」
手渡されたのは、今朝方に母が持ってきたという弁当だった。
毎日朝晩、欠かさず差し入れに来ているらしい。
本堂にいると言われて行ってみると、経でもあげているかと思ったのに何と雑巾がけをしていた。
「義明」
「……にいさん」
「どうだ、元気にしてるか」
声をかけると、弟は手を休めて正座で向き直ってくれた。
「辛くないか」
「……………」
問いかけても返事が返ってこないから、
「愚問だな」
仕方なく自分で答える。
話題を探して
「それも修行の一環か?」
雑巾がけのバケツを指し示すと、
「からだをうごかしていたほうが、らくなんです」
幼い声で敬語を紡ぐ。
「だからよるは」
無表情なのは、感情を表に出さないようにしているからだ。
「あたまがはれつしそうになります」
あまりの痛々しさに、照弘の心まで破裂しそうになった。
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