「お主、真実の名はなんという?」
これにはさすがの義明も驚いたようで、床に落としていた視線をこちらへ向けた。
国領が気を集中して相手に呼び掛けると、大抵の場合何らかの反応がある。それなのに何の反応も示さないということは、呼ばれた名が、自分の名ではない可能性がある。
そのことを、国領は長年の経験から知っていた。
「どういう意味ですか」
「隠さずともよい。世の中にはいるのだ。己を己でないと思っている人間がな。大抵は悪霊にとり憑かれたか、唆されたかだが───」
悪霊という言葉に、義明は貌を歪めた。まるで自嘲の笑みにように。
子供のする表情ではないな、と国領は思った。しかし視たところ悪霊に憑かれている様子はない。とすれば、何かしら悪い霊との接触があったのだろう。
「苦しくはないのか」
まずは魂の回復への自覚を促すことだ。自覚がないことには何も進まない。
「以前のような心の安定を取り戻そうとは思わないのか」
すると、予想外の出来事が起きた。
───兄にはきかれたくありません
義明が、心の声で話しかけてきたのだ。
これにはさすがの義明も驚いたようで、床に落としていた視線をこちらへ向けた。
国領が気を集中して相手に呼び掛けると、大抵の場合何らかの反応がある。それなのに何の反応も示さないということは、呼ばれた名が、自分の名ではない可能性がある。
そのことを、国領は長年の経験から知っていた。
「どういう意味ですか」
「隠さずともよい。世の中にはいるのだ。己を己でないと思っている人間がな。大抵は悪霊にとり憑かれたか、唆されたかだが───」
悪霊という言葉に、義明は貌を歪めた。まるで自嘲の笑みにように。
子供のする表情ではないな、と国領は思った。しかし視たところ悪霊に憑かれている様子はない。とすれば、何かしら悪い霊との接触があったのだろう。
「苦しくはないのか」
まずは魂の回復への自覚を促すことだ。自覚がないことには何も進まない。
「以前のような心の安定を取り戻そうとは思わないのか」
すると、予想外の出来事が起きた。
───兄にはきかれたくありません
義明が、心の声で話しかけてきたのだ。
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