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(うわ……今日もいるよ……)
 春から始めたバイト先のコンビニでは現在、とある問題が急浮上していた。
(あいつら、中学生だろ)
 8月に入ったころから店舗横の駐車場で近所の若者たちがたむろすようになり、それが夏休みの明けた現在になっても続いているのだ。
 店長に訴えてみても、最近の若い子は何をするかわからないからとか言って、何をしてくれる訳でもない。
(倉庫開ける時、邪魔で嫌なんだよなあ)
 何より、夜半過ぎに彼らが去った後の駐車場は、ペットボトルや煙草の吸殻が散乱して、ひどい有様だ。
(どうにかなんねーもんかな……)
 そんなことを考えながら、暗い気持ちでレジ打ちをしていたものだから、その少年が店内に入って来た時も、当然、件の若者たちと結びつけて考えてしまったのだ。
(うわ……)
 少年は、店に入るなり、店内を値踏みするようにジロリと眺めまわした。
(め……眼つきハンパねぇ……)
 彼らの親玉に違いない、と思った。
 しかも彼の後に続いて入って来た大男は、全身をダークスーツで固めている。
 ……間違いない。ホンモノだ。
 がしかし、少年は店内中をジロジロと睨みつけた後で、お菓子売り場へやってくると、新製品と書かれたふたつのお菓子を前に腕組みを始めた。
 後ろに従えたスーツの男に、意見を求めたりもしている。
「どっちがいいと思う?」
「ふたつとも買えばいいんじゃないですか」
「んなことしたら、太らせる気?とか言って怒られんに決まってんだろ」
 スーツの男は苦笑いでその場を離れると、店内の商品をいくつか手に取ってから、彼の元へと戻った。
「決まりました?」
「……こっちにする」
「お腹は?空いてないんですか」
「あ、パン買ってく」
 彼の希望で菓子パンコーナーへと移動したふたりは、何やら楽しげに話していたが、やがてレジへ来て支払いを終えると、そのまま店を出て行った。
「ありがとうございましたー」
(なんだ、それっぽく見えたけどカタギじゃん)
 ほっとしたのも束の間、店を出て行った少年が、駐車場の若者らに視線を向けているのが眼に入ってしまった。
 そして、少年は若者たちに向かって、迷いなく歩き出した。
 しばらくその様子を遠くから眺めていたスーツの男も、やはり後を追って彼らの元へと向かう。
 こちらからは遠すぎて、あまり様子が伺えなかったが、ややして───
(あ、すごい)
 なんとたむろしていた若者たちが、不満顔ながらも周囲のゴミを拾って、ゴミ箱へ捨てにやって来たのだ。そして、そのままぞろぞろと去っていく。
(おお……すごいすごい……)
 是非、お礼が言いたい。
 気がつくと、店の外へ走り出していた。
「あの!」
 声をかけると、少年と男性がこちらを振り返る。
「あ、ありがとうございました!」
 ぺこりと頭を下げると、少年がぶっきらぼうに言った。
「別に。あーいう奴らは、言わなきゃわかんねーから」
 次にあいつらが来た時は、お前が注意してやれよ、そんなことを言って、少年はスーツの男ともに車に乗り込む。
 しばらくして、車は駐車場を出て行った。
 それを見届けながら、
(いやいや、言えねーから)
 自分にはそんな眼ヂカラはないし。
 しかし………。
 もし今度彼らが来たら、ゴミくらいは拾って欲しいとお願いしてみようか。
 不思議なことだが、何故かそう思えるようになっていた。
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「寝ねぇの?」
「あと、もう少しだけ……」
 ソファに座ってノートPCに向かっている直江は、ひたすらにキーボードを叩いている。
「先寝るぜ」
「えぇ?すぐに行きますから起きててください」
 それを聞いた高耶は露骨にいやな顔をした。
「やだよ」
 元から期待などしていなかった直江は、苦笑いになる。
「いいですよ、お先にどうぞ。おやすみなさい」
「おやすみ」
 そのまま寝室へと入っていった高耶だったが、
「………?」
 またすぐに戻って来た。
「どうしました?」
「やっぱ、起きてるわ」
 直江の隣に腰掛ける。
「それ、すぐ終わるんだろ」
 テレビのリモコンを手に取ると、スイッチを入れた。
「せっかく、一緒にいるんだしな」
 高耶の、いじらしい一言に、
「……今、終わりました」
 直江はPCをガシャンと閉じると、そのまま高耶を強引に押し倒した。




「景虎様」
「んぁ?」
「聞いて……なかったですね」
「悪ぃ、なになに」
「ですから、この調査は私が、これとこれは晴家に任せるとして、こっちはあなたひとりでどうですかと言ってるんです」
「え~、めんどくせえ」
「だって、松本市内ですよ?私なんて青森ですよ、青森」
「千秋様にやらせろよ」
「千秋……"様"?」
「あいつ、頼めば何だかんだでやってくれんじゃん」
「そんなことより……何故、"様"などと?」
「ああ、何かみんながそう呼ぶからウツった」
「……景虎様」
 直江の表情に不穏な気配が漂う。
「ん?」
「……試しに直江"様"って言ってみて貰えませんか」
「いやだ」
 即答した高耶は、何がためしだよ、と悔しげな顔をしている直江を下目遣いで眺めた。




「恐怖の消しゴム?」
「これ」
 譲は、高耶に向かってティッシュに包んだ消しゴムをそっと差し出した。
 その隣で、矢崎がぶるぶると震えている。
「便器の中に落としちゃったからゴミ箱に捨てたらしいんだけど、必ず矢崎のところに戻ってくるんだって」
 どうしたら消しゴムを便器の中に落とせるのか疑問に思いながら、高耶は消しゴムに視線を落とした。
「そりゃあ、こんだけでっかく名前が書いてあればなあ」
 比較的大きなその消しゴムには、矢崎の汚い字で学年にクラス名、名前がでかでかと書かれている。
「花壇の植え込みに捨てても、窓から校庭に向かって思いっきしなげても駄目なんだ」
「ゴミをそんな風にすんじゃねーよ」
 高耶にしてはずいぶんまともなことを口にしながら、
「学校の外で捨ててみろよ。したら戻ってこねーって」
「……お祓い、してもらえないかなあ」
「譲、お前なあ」
「お経唱えて貰うだけでも、違うと思うんだけどなあ」
「頼む!」
「……千秋"様"に頼めば?」
「あ、そっか。千秋様もできるんだ」
「千秋様っ!!!」
 矢崎は必死の形相で、千秋の元へと走り寄った。




 次の時間割を見て、矢崎はぎょっとなった。
「やべえ!オレ課題でてんじゃん!」
 教材を片手に慌てて千秋の元へ走り寄る。
「千秋様!」
 ところが千秋はすでに他の生徒に取られていた。
「あほ、なんでここがこーなるんだよ!」
 千秋は悪態をつきながらも、その生徒に問題を解かせている。
「千秋様!これも頼む!!」
 矢崎が頭を下げながら教材を差し出すと、
「ぎゃあ~っ!千秋様!こっちも!!」
 教室の隅のほうから声が上がった。
「知るか!」
 嫌そうな顔で怒鳴った千秋だったが……結局、三人を相手に悪態をつく羽目になるのだった。



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