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 松本の自宅で夕飯の準備をしていると、長秀から電話が入った。
『かげとらっ、テレビつけろっ!今すぐっ!』
 リモコンを手に取りながらチャンネルはどこかと聞こうとしたが、すぐに必要がないとわかった。
 どの局も緊急生放送になっている。
 赤字のテロップは"斯波英士緊急記者会見"。
『晴家に電話するから、直江に知らせてやってくれ』
 と言っているうちに直江からキャッチホンで着信が入る。
『景虎様!いま───
「ああ、みてる」
 いったい何を発表するつもりなのだろうか。
 やはり音楽活動に専念などというのはあくまでも噂で、何かの計画の下準備だったのだろうか。
 テレビ画面には会場入りした信長の表情がアップで映り、いっせいにフラッシュがたかれている。
 しばらく経っても会場が静まることはなく、仕方なく進行を始めた司会の女性はすぐに信長へ
発言権を委ねた。
「本日は、急な呼びかけにも関わらず、お集まり頂きありがとうございます」
 信長の浪々とした声は相変わらずで、高耶も握った拳に力が入る。
 短い挨拶の後、話はいよいよ本題へと入った。
「この度、───監督の次回作に出演が決まりました」
 おおお、と会場にどよめきが走る。
 それは、日本でもかなり名の知れた、米国出身の大物映画監督の名前だった。
 映画の内容や、出演の経緯など次々に質問がとんで、信長がそれにひとつずつ答える中、画面の
テロップのほうは早々と"斯波英士、ハリウッド進出"に変わっている。
「ハリウッド……か……」
 高耶がため息とともにそう漏らすと、
『人騒がせな……』
 電話の向こうの直江も呟く。
   ……ええ、しばらくはLAの方に活動拠点を移すつもりで……
 会見はしばらく終わりそうにない。
 とりあえず、《闇戦国》関連ではなくて安心したものの、とうとう日本からもいなくなってしまう
信長に、一抹の寂しさを感じなくも無い高耶だった。
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 宿毛砦へ顔を出したら、直江の髪がさっぱりしていた。
 誰にやらせたのかと訊いたら、自分でやったのだという。
(器用なやつ)
「バリカンという手もありましたけど、手元になかったので」
 直江はさらっとものすごいこと言った。
「おまえが?バリカン?五分刈りにでもするつもりか」
「これでも頭を丸めていたことだってあるんですよ」
 修行僧時代の、ほんの少しの間だけでしたが、と笑っている。
 ちょっぴり想像してみた高耶は、
「………風邪引くからやめろよ」
とだけ忠告しておいた。




 直江に身体を預けた高耶は、じっと窓の外をみつめていた。
 直江はその顔をじっとみつめる。
「あなたは誰かに可能性を奪われたいと思ったことはないんですか?」
 高耶が自分にした質問と同じものを、直江もしてみた。
 すると、
「ない」
 いやにはっきりとした答えが返ってきた。
「オレから何かを奪えるヤツなんて、いないだろう?」
 不遜げなその表情が、直江の心臓を鷲掴みにする。
 ひれ伏してしまいたい衝動と、ぐちゃぐちゃに壊してしまいたい衝動とが、交互に襲ってきた。




 酔っ払った綾子がふらふらと繁華街を歩いていたら、少し先をよく見知った男が歩いていたから、叫びながら背中に激突した。
「にゃ~おえっ!!」
 思った以上にまわらない口が自分でおかしくて、げらげらと笑いながら直江の肩をバシバシと叩く。
 すると、
「どなたかと人違いされてませんか」
と、思いっきりの社交スマイルで言われた。
「へ?」
 よく見れば、直江の隣には見知らぬ女性がひとり。
「………あ、すいませぇ~~ん。まちがえましたぁ~~」
 後が怖いのでおとなしく引き下がりはしたが、ふたりの後姿を見送る綾子を傍らの女性がちらりと振り返った。
 その視線がとても好意的とはいえないものだったから、なんだか気に入らない。
「む~~~~」
 あんたが今から寝るその男はね……!と悪行を並び立ててやりたかったが、そこは自分ももう大人だ。
 ぐっとこらえて、あかんべーだけで我慢した。




  そ、と、に、で、て

 待ち合わせ場所の喫茶店で待っていると、高校の制服姿の綾子が表通りから
ガラス越しにジェスチャーで伝えてきた。
 直江は仕方なく会計を済ませてから外に出る。
「なんだ」
 久しぶりに会った綾子は、髪を少し切っていた。
「こんなとこで待ち合わせたりしたら、援交だと思われちゃうわよ」
「………何故"援助"をつける。普通の交際だと思うかもしれないだろう」
 まあ綾子と自分の歳なら、それでも犯罪になってしまうのだが。
 直江の言葉に目をぱちくりさせた後で、綾子はうーんと小首をかしげて言った。
「それもイヤ」
「……………」
 こっちのセリフだと言いたい。
「ね、それより早く行きましょう」
 昼食はホテルのバイキングで、と綾子が勝手に手配してしまったのだそうだ。
 自分で金を出すわけでもないくせに。
 綾子の直江をひっぱろうとする腕が絡まってきて、これではどうみても恋人同士だ。
 いったい何がイヤで何がイイのか、全く理解できない。
 せめてふたりで会うときだけは私服で来て欲しい、と思う直江だった。



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