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「"レキジョ"?」
「はい。妹が」
 私の妹は、正真正銘の"歴女"だ。
 そのせいで、私まで徐々にハマりつつある。
「直江兼続って知ってます?」
「…………ええ、まあ」
「去年一年、妹に付き合ってずっと観てたんですよね」
「ああ、大河ドラマの話ですね」
 いつだって魅力的な橘さんの微笑が、何だが不自然に引き攣って
いたから、ん?と思いつつ話を続ける。
「橘さんも観てました?」
「観てたというか、観なくてもわかるというか……」
「え、じゃあ結構詳しいんですか、歴史」
「時代によりけりですよ」
「じゃあ、戦国時代とかは」
「………まあ、それなりに」
「じゃあ、誰が好きですか?えっと、天○人の登場人物の中だったら」
 橘さんはかなり真剣な顔で悩んだ挙句、小さな声でポツリと言った。
「………ナオエ……」
「………兼続?」
「………。いえ、やっぱり上杉景虎で」
「ええ?景虎ってタ○テツが演ってた?」
「誰が演じていたかはよく知らないんですが」
「そっか~、カゲトラかあ~。私は常○貴子が昔から好きなもんで、
"お船さん"だったかな?彼女が好きでした」
「…………あの、話題を変えましょう」
 橘さんは何故か、大きな物件が決まる寸前で話を白紙に戻された時
ような顔で、そう言った。
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 不動産業を営む親戚のおじさんに紹介してもらった仕事は、とある不動産会社の
事務スタッフだった。
 栃木の不動産屋さんが東京に支部を持つということで、働ける人を探していたの
だそうだ。
 以前におじさんのところで働いていたことのある私は、経験ありということで
すぐに採用となった。
 橘不動産東京支部、創立メンバーは、社長と、社長の昔馴染みでナントカという
商社から引き抜かれた営業マンがひとり、それに私。その三人だけだったのだ。
 営業が始まえrば当たり前のように人手が足りず、次第に人員も増えていき、
支部発足から数ヵ月後。
 遂に、とうとう、"彼"はやってきた。
 橘不動産の幽霊部員ならぬ幽霊社員として有名で、私もそれまでに何度か顔を
合わせたことのあった"彼"は、正式に東京支部で働くことが決まったのだ。
 実質支部長の立場となるのだが、"彼"が肩書きを嫌ったせいで役職はなし。
 私は"橘さん"と呼んでいる。
 実の兄弟である社長と、顔立ちは似ていなくもない。
 けれど雰囲気は、明るくて酒が入ると特に開放的になる社長とは正反対。
 大抵の人はその物腰の穏やかさからか、親しみやすいという印象を持つようだけど、
私は禁欲的でどこか陰のある人物だと思う。
 周りの子達のようにお近づきになりたいとまでは思わなかったけれど、単調に
なりがちな事務仕事を楽しくさせてくれるには充分な存在となった。




「ラーメン、ですか」
「……なんだよ」
 不服な気持ちが声に出てしまって、助手席の高耶の声までもを
不機嫌にしてしまった。
「おまえが何食いたいかって聞いたんだろ」
「ええ、そうなんですが」
 苦笑いでごまかしてみても、その場は収まりそうにない。
「最近、暴食すぎやしませんか」
 正直、ここ数日油っこいものが続いていて胃がおかしい。
 高耶は平気なのだろうか。
「……そっか。そうだよな。オレが悪かったよ。歳の差ってやつを
ちゃんと考えてやらなきゃな」
「どういう意味です?」
「若者の食生活に付き合わせて悪かったって言ってんだよ」
 高耶は意地の悪い笑顔で言う。
「ああ、そうだ。そばなんかいいかもな。なんかさっぱりしたもんが
食いてーなー」
 わざとらしいその言葉に、カチンときた。
「………ラーメンにしましょう。とんこつの、脂たっぷりのやつ」
 眉間に皺を寄せて、ラーメン屋へ車を向けると、高耶は無理すんな、
と肩を叩いてきた。




※「endless richness」年明けのその後

「それで、その後は?」
「………美弥と、近所の神社に……っ」
 直江は、大晦日や元旦や、ここ数日の高耶の行動を全て聞きたいと言った。
「そう。賑やかだったでしょう」
「……やたいが……いっぱ……いっ……」
 やりきれないといった感じで首を横に振った高耶は今、クリスマスの体位の再現をさせられている。
 つまり、直江の腹の上に乗って、ひとつに繋がったまま話をさせられているのだ。
「なにか買いました?」
 そう訊かれて、高耶は躊躇うように黙り込んでしまった。
 見かねた直江が高耶の性器を無遠慮に扱き上げる。
「あっ……!あああっ……!」
「ほら、どうしたの?なにか買ったんでしょう?」
 直江は本当に全てを話させるつもりらしい。
 観念した高耶は口を開いた。
「チョコ……バナナ……っ」
「チョコバナナ?」
 直江は思わず苦笑いになって復唱する。
「そう。美味しかった?」
「……あっ……あっ………おいしか……っ」
 直江が手の動きを止めないせいで、高耶の体が次第に揺れ始める。
「いったいどんな顔で、バナナなんて食べたの?」
 高耶は首を振って答えない。
「んっ……んっ……」
 けれど我慢が出来ずに、瞳を閉じたまま腰を上下させ始めた。
 その様子を笑って見つめながら、直江は言う。
「動いてもいいけれど、ちゃんと話して」
 眼を開いて直江を睨み付けた高耶は、更に言葉を続けた。
「……あとは……っ、やきそばと……たこやきと……っ」
「食べてばかりですね」
 直江はクスリと笑う。
「わたあめ……とっ……!」
「……綿あめと?」
 高耶の動きが激しくなるにつれて、直江の息も多少は乱れる。
「それから?」
「あっ…あっ…あっ……むりだっ」
「それから、どうしたの?」
「んっ、んんっ……!なおえッ……あッ……アアッ───!!」
 高耶の身体ががくりと揺れて、性器から勢いよく白いものが飛び出した。
「あっ……あっ………」
「ん、いっぱいでましたね」
 まるで子供を誉めるように高耶の髪をかき上げた直江は、それでもその体勢を解こうとしない。
「続きを話して」
 そう言われて、高耶は驚く気力すらなかった。
「どうしてこんなことをするんだ……」
 顔を歪めて高耶がそうたずねると、直江は首をかしげた。
「どうしてでしょう?でもこの数日ずっと、あなたのことばかりを考えていた」
 手が、高耶の内股を愛しげに行き来する。
「だから教えて欲しい。俺の知ることの出来なかったあなたのすべてを」
 もう片方の手が、まだぐったりとしている高耶の性器を優しく撫でた。
「どこへ行き、何をしたのか。何を食べたのか。その食事の量も、排泄の回数も、あなたの手とこのぼうやが、どんな遊びをしたのかも」
───っ!」
「教えて?」
 直江は本気だ。眼を見ればわかる。
 高耶は諦めの表情で、再び口を開くしかなかった。




※「endless richness」年明けのその後

 年に一度だけの紋付羽織に袴姿の直江は、時計を眺めてため息をついた。
 時間が経つのが遅い。
 明日には高耶に会える。が、これでは高耶に会う前に待ちくたびれて死んでしまいそうだ。
 苛立ちのせいか煙草が吸いたくてしょうがなくなった。
 母親には、衣服に匂いがつくからと止められている。
 だから自室に隠れて吸っていると、
「義明、澤村さんがお見えだぞ」
 同じく紋付袴姿の照弘が、檀家への挨拶のために直江を呼びに来た。
「今行きます」
 吸殻を灰皿へと押し付けて、直江は立ち上がる。
 ニヤつく照弘は、直江の隠れ煙草の理由などとうにお見通しとでも言いたげだ。
「明日、もう東京に戻るんだってな」
「ええ、まあ」
「で、いつ紹介してくれるんだ」
「……何の話です?」
「お前がいま会いたくてしょうがないひとの話、だよ」
───兄さん」
 直江は立ち止まって言う。
「そんな話、お母さんには絶対にしないでくださいよ」
「わかってる、わかってる」
 照弘の二度返事ほど、あてにならないものはない。
 直江は不安気に息を吐いた。



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