「こんな空気のうまいとこ来てまでタバコかよ」
声に驚いて振り返ると、高耶が立っていた。
「って、譲なら言うぜ」
夜空には数え切れないほどの星が光っている。
直江はそれらを眺めながら、優雅に一服中だったのだ。
「美弥さんは」
「ぐっすり。はしゃぎすぎて疲れたんだろ」
高耶は直江の吸いかけのタバコをとりあげると、口に銜えた。
「ガキの頃、よくキャンプごっこしてた」
注意しようと口を開きかけた直江は、いきなり始まった高耶の昔話を邪魔したくなくて口を噤んだ。
「美弥の友達が休みっていうとキャンプに行くから、自分も行きたいって言い出してさ。もちろん行けるわけねーじゃん?」
きっと、家庭内が荒れに荒れていた時期の話なのだろう。
「だから家で作ったカレー持って、公園行ってさ。レジャーシートでテント作って」
「楽しそうですね」
「いま思えばな。でも当時はみじめでしょうがなかった」
直江は灰の落ちかけたタバコを高耶の手から取り上げると、簡易灰皿の中へと突っ込んだ。
声に驚いて振り返ると、高耶が立っていた。
「って、譲なら言うぜ」
夜空には数え切れないほどの星が光っている。
直江はそれらを眺めながら、優雅に一服中だったのだ。
「美弥さんは」
「ぐっすり。はしゃぎすぎて疲れたんだろ」
高耶は直江の吸いかけのタバコをとりあげると、口に銜えた。
「ガキの頃、よくキャンプごっこしてた」
注意しようと口を開きかけた直江は、いきなり始まった高耶の昔話を邪魔したくなくて口を噤んだ。
「美弥の友達が休みっていうとキャンプに行くから、自分も行きたいって言い出してさ。もちろん行けるわけねーじゃん?」
きっと、家庭内が荒れに荒れていた時期の話なのだろう。
「だから家で作ったカレー持って、公園行ってさ。レジャーシートでテント作って」
「楽しそうですね」
「いま思えばな。でも当時はみじめでしょうがなかった」
直江は灰の落ちかけたタバコを高耶の手から取り上げると、簡易灰皿の中へと突っ込んだ。
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「まさか、ほんとにその恰好でくるとはね」
残った直江の元へ、綾子がやってくる。
さすがに上着は脱いでいたが、直江は今日もスーツだった。
千秋が言ったのだそうだ。
ポリシーなんだろ、だったら脱ぐんじゃねーと
「まあ、見慣れすぎて違和感ないけどねえ」
そう言いながら、綾子はちらりと直江の左手を見る。
「それ、外したって誰も気にしないわよ」
シャツの腕を捲った直江は、腕時計をつけたままだ。
直江も同じようにちらりと自分の左手首を見たあとで、
「していたって誰も気にしないだろう」
「まあ、ね」
綾子は首をすくめてそう答えた。
残った直江の元へ、綾子がやってくる。
さすがに上着は脱いでいたが、直江は今日もスーツだった。
千秋が言ったのだそうだ。
ポリシーなんだろ、だったら脱ぐんじゃねーと
「まあ、見慣れすぎて違和感ないけどねえ」
そう言いながら、綾子はちらりと直江の左手を見る。
「それ、外したって誰も気にしないわよ」
シャツの腕を捲った直江は、腕時計をつけたままだ。
直江も同じようにちらりと自分の左手首を見たあとで、
「していたって誰も気にしないだろう」
「まあ、ね」
綾子は首をすくめてそう答えた。
「トイレみた!?トイレ!穴しかあいてないわよ!」
「昔を思い出してみろよ?囲いがあるだけマシだろ」
「あああ……やなこと思い出しちゃった」
「米沢んときの、アレだろ」
「もー、いい加減忘れたいわ」
テントを組み立て終えた千秋と綾子がトイレ談義に花を咲かせている後ろの方で、
「そうそう、そうやってカドとっとくと形が崩れないわけ」
「へえ~、知らなかった」
「で、たまねぎも切り方によって味が変わってくるから。例えば──」
高耶が譲に包丁指南をしている。
さらにその隣では、直江と美弥がかまどに火を入れていた。
「ほら、楽に薪に火が移ったでしょう?」
「直江さんすご~~い♪」
美弥にキラキラとした眼で見つめられて、直江は困った顔をする。
「コツさえ知っていれば簡単なんですよ」
「そうそう。そのコツが掴めずに、昔どっかの誰かさんが苦労してたっけ」
千秋が横からチャチャを入れてきた。
「お前は米をといで来い、米を」
直江が飯ごうを差し出すと、
「おっし美弥ちゃん、一緒に行くか」
「はあい」
千秋は美弥を連れて水場へと消えた。
「昔を思い出してみろよ?囲いがあるだけマシだろ」
「あああ……やなこと思い出しちゃった」
「米沢んときの、アレだろ」
「もー、いい加減忘れたいわ」
テントを組み立て終えた千秋と綾子がトイレ談義に花を咲かせている後ろの方で、
「そうそう、そうやってカドとっとくと形が崩れないわけ」
「へえ~、知らなかった」
「で、たまねぎも切り方によって味が変わってくるから。例えば──」
高耶が譲に包丁指南をしている。
さらにその隣では、直江と美弥がかまどに火を入れていた。
「ほら、楽に薪に火が移ったでしょう?」
「直江さんすご~~い♪」
美弥にキラキラとした眼で見つめられて、直江は困った顔をする。
「コツさえ知っていれば簡単なんですよ」
「そうそう。そのコツが掴めずに、昔どっかの誰かさんが苦労してたっけ」
千秋が横からチャチャを入れてきた。
「お前は米をといで来い、米を」
直江が飯ごうを差し出すと、
「おっし美弥ちゃん、一緒に行くか」
「はあい」
千秋は美弥を連れて水場へと消えた。
「キャンプ、ですか」
電話の向こうの高耶に、直江は聞き返した。
『そ。なんかこの前んとき、千秋のヤツが勝手に美弥と約束してたみたいで』
日帰りでキャンプ場まで遊びに行ったのが、ついこの間の話だ。
今度は泊まりで、ということらしい。
『ねーさんもまた来るみたいだし、おまえはどーするかと思って』
「そうですねぇ……」
実は照弘絡みの仕事の予定も入っていたし、どうしようかと悩んでいたら、
『………来たらきっと、楽しいぜ?』
高耶の遠慮がちな誘いに、直江の脳内スケジュールは瞬時に書き換えられた。
電話の向こうの高耶に、直江は聞き返した。
『そ。なんかこの前んとき、千秋のヤツが勝手に美弥と約束してたみたいで』
日帰りでキャンプ場まで遊びに行ったのが、ついこの間の話だ。
今度は泊まりで、ということらしい。
『ねーさんもまた来るみたいだし、おまえはどーするかと思って』
「そうですねぇ……」
実は照弘絡みの仕事の予定も入っていたし、どうしようかと悩んでいたら、
『………来たらきっと、楽しいぜ?』
高耶の遠慮がちな誘いに、直江の脳内スケジュールは瞬時に書き換えられた。
観光客でにぎわう雑貨屋で美弥に小さな小物入れを買った後、食料品店でしきりに気にしていた少々値段の貼るごま油を直江に買って貰って、高耶は満足したようだ。
「さすがに昼食にはまだ早いですねえ」
直江が腕時計を見ながら言うと、
「え、オレはいつでもオッケーだけど」
と、高耶がお腹をさするから、直江は思わず吹き出した。
結局もうちょっと陽が高くなってから、ということになり、ふたりは目的もなくブラブラと歩き出す。
「死人の面倒見る前に、もっとすることあるよなあ」
ぽつりと高耶が呟いた。
「例えば?」
「友達の悩みをきいてやるとか」
「え?」
高耶のキャラにない発言に、思わず直江は耳を疑った。
「オレのまわりにだって、あいつみたいに早まって馬鹿な真似するやつがいないとも限らないだろ」
高耶は真面目な顔で話している。
「だからってあなたに相談ごとですか」
直江が茶化すと、
「うるせーなー」
高耶は自分でも解っていたらしく、
「ま、譲みたいのがいなくなったら、世の中終わりだな、きっと」
と腕組みで頷いている。友人たちの相談役は、成田譲に託す気になったようだ。
「そうですね」
確かにあの譲なら、親身になって話を聞いてくれそうだ。
「オレとかおまえみたいのばっかになったら、自殺者で電車止まりまくりだな」
「………一緒にしないでください」
電車の中では褒めてくれたはずなのに、今度は何故かヤンキー高校生と一緒にされてしまった。
直江は眉を上げながら、そのことに対して抗議をする。高耶は笑ってそれを受け止めた。
異国情緒溢れる町中を、ふたりはしばらくの間、ゆっくりと歩き続けた。
「さすがに昼食にはまだ早いですねえ」
直江が腕時計を見ながら言うと、
「え、オレはいつでもオッケーだけど」
と、高耶がお腹をさするから、直江は思わず吹き出した。
結局もうちょっと陽が高くなってから、ということになり、ふたりは目的もなくブラブラと歩き出す。
「死人の面倒見る前に、もっとすることあるよなあ」
ぽつりと高耶が呟いた。
「例えば?」
「友達の悩みをきいてやるとか」
「え?」
高耶のキャラにない発言に、思わず直江は耳を疑った。
「オレのまわりにだって、あいつみたいに早まって馬鹿な真似するやつがいないとも限らないだろ」
高耶は真面目な顔で話している。
「だからってあなたに相談ごとですか」
直江が茶化すと、
「うるせーなー」
高耶は自分でも解っていたらしく、
「ま、譲みたいのがいなくなったら、世の中終わりだな、きっと」
と腕組みで頷いている。友人たちの相談役は、成田譲に託す気になったようだ。
「そうですね」
確かにあの譲なら、親身になって話を聞いてくれそうだ。
「オレとかおまえみたいのばっかになったら、自殺者で電車止まりまくりだな」
「………一緒にしないでください」
電車の中では褒めてくれたはずなのに、今度は何故かヤンキー高校生と一緒にされてしまった。
直江は眉を上げながら、そのことに対して抗議をする。高耶は笑ってそれを受け止めた。
異国情緒溢れる町中を、ふたりはしばらくの間、ゆっくりと歩き続けた。
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