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「じゃあ、すいません!オレ上がるんで!」
 主任へ声をかけると、向こうから掌を顔の前に立ててやってくる。
 すでに予定の上がり時間から、30分がオーバーしていた。
 立続けに来客があって、上がりそこねてしまったのだ。
「悪いなあ、仰木。クリスマス手当て、つけてやるからな」
「別にいいっすよ、そんなの」
「……そうか?関係ないって顔してる割には、ずいぶん急いでないか?」
 コレか、と主任は自分の小指を示してきた。
「そんなんじゃないっすから」
 高耶は笑うと、じゃあと再び言って更衣室へと向かった。
 着替えを終えて従業員用の裏口から出ると、歩く足が自然と速くなる。
 この先のいつもの場所で、直江は待っているはずだ。
 高耶を待つとき、直江は何故か車の中で待ちたがらない。
 だからこの寒い中、車の脇に立って待っているはずなのだ。
 角を曲がったところでやっと、直江の姿が目に入る。
 案の定直江は車に寄りかかり、寒空を見上げていた。
「直江!」
高耶が駆け出すと、直江がこちらに気付いて笑顔になった。
「わりぃ、遅くな───っ………」
 走ってきた高耶の腕を、直江は掴んで引き寄せた。
 そのままぎゅっと抱き締めると、肩口に顔を埋めてくる。
「………直江」
 いつもならばこんな場所で、と突き放す高耶だが、直江の身体があまりにも冷えきっていたせいで、それも出来なかった。
 だから背中を、ポンポンと宥めるようにさすっていたら、じきに直江は顔を上げた。
 それでもまだ、身体を離してはもらえない。
 すごく近い場所にある直江の顔は笑っている。
「………そんなに子供っぽかったですか」
「べつに。そんなことない」
 何だか今日は直江を庇ってやりたい気分だ。
 クリスマスのせいで、多少は自分も浮かれているのかもしれない。
 目の前にあった直江の顔が更に近づいてきて、唇と唇がすこしだけ触れた後、高耶はやっと開放された。
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