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『 週末 01 』≪≪    ≫≫『 コンビニ 02 』   
おまけIndex


「高耶さん。そろそろ着きますよ」
 助手席ですっかり寝込んでいた高耶は、目を擦りながら身体を起こした。
「あ……コンビニ行きたい。美弥に土産買って帰んねーと……」
 という高耶の一言で、車を最寄のコンビニへと向けることとなった。
「こないださ、美弥のやつ、何て言ったと思う?」
「何ですか」
「早く夏休みが来ないかな、だって。まだあと一年あるっつーの」
 高耶は楽しげに笑った。
「よっぽど、楽しい夏休みを過ごしたんでしょうね」
「……おまえらのおかげもあるだろ」
 そういえば、この夏は海やら山やら祭りやら、散々連れまわされてしまった気がする。
「ありがとうな、ほんと」
「……らしくないですね」
 殊勝な顔をしている高耶をからかうと、
「オレも、たまには"まとも"なことを言うんだよ」
 笑う高耶に、直江も微笑み返す。
 そんなタイミングで、車はちょうど、コンビニへと到着した。
 9月もそろそろ半ばで、夜の気温は日に日に下がっていっている。
 それでも車外に出ると、むっとした外気が肌に纏わりついた。
 店内に入ってすぐ、高耶はお菓子の売り場でどれがベストのお土産か、悩み始めてしまった。
 そんな高耶のそばを離れ、直江は水と眠気覚ましのガムを手に取った。
 高耶を送り届けたら、その後は実家までの長いドライブが待っているのだ。
 ちょっと暗い気持ちになりつつも、やっと美弥への土産を決めた高耶と、夜食を買うために店内を移動する。
「あ、コレうまそう」
 いつも焼きそばパンばかりの高耶が、ちょっと豪華な惣菜パンを手に取っている。
「でも、今月ピンチだかんなー」
「大丈夫ですよ。経費で落とせますから」
「……おまえのその経費ってさ、兄貴んとこの不動産屋?それとも上杉の?」
「今日は上杉でいけますね」
「……いつか、ケンシンに化けて出られそうだよな」
 高耶の言葉の言い回しに、直江は思わず笑ってしまった。
「そしたら、あなたが怒られてくださいね」
 会計を済ませて外に出ると、夏の終わりの湿った風が吹き抜けていく。
「高耶さん?」
 車へ向かおうをした直江は、着いてこない高耶に声をかけた。
 何かに気を取られて立ち止まっている。
 その視線の先には、地べたに座り込んでわいわいと騒いでいる若者たちがいた。
 決して、いやなものを見る眼ではない。懐かしいものを見る眼だ。
 高耶の足が、自然とそちらへ向かうのを、直江はしばらく後ろから眺めていた。
 声をかける高耶。若者たちのあからさまな拒絶。
 ひと悶着ありそうな雰囲気だ。
 そう感じた直江も後を追って歩き出すと、案の定、彼らのひとりが高耶に掴みかかる。
「……………」
 放って置いたって別段問題はないことはわかっていた。
 が、くだらない人間たちが高耶に触れるのは我慢ならない。
 腕を離すように言って、彼を汚れた手から開放すると、二度と彼に近寄らないよう、無作法な輩に無言で言い渡す。
 高耶が喋り始めれば、彼らは見るからに意気消沈し、やがてゴミ拾いまでして去っていった。
「……ったく」
「"まとも"なこと、言ってましたね」
「まーな」
 彼らの後ろ姿を見つめながら、高耶はぼやいた。
「居場所が欲しさにあーゆーことしてると、ますます居場所がなくなるんだよな」
「経験者は語る、ですか」
「……譲がいなかったら、オレもあいつらに敬語使われてたかもな」
 その想像は、あながち違ってもいないだろう。
 苦笑いになる直江を、ふと高耶が真顔で見つめてきた
「?」
────……」
 高耶が何かを言いかけたそのとき、コンビニの店員が話しかけてきて、話の続きを遮られてしまった。
 が、どうしても気になったから、車に乗り込んだ後で、
「さっき、何かいいかけたでしょう」
「ん?」
「何なんです」
 問いただしてみた。すると、
「おまえや千秋やねーさんといると、遅かれ早かれこうなってたのかなって思うんだよな」
 直江がエンジンをかけると、エアコンの通気口からひんやりとした風が吹き出てきて、高耶の前髪を揺らした。
「譲と会ってなくても、いずれはおまえたちとこうしてたんじゃないかって」
「……どうでしょうね」
 シートベルトを引っ張って、直江は言う。
「譲さんがいなければ、あなたが魔縁塚の一件に関わることもなかったでしょうし……。まだあなたとも、出会えていなかったかもしれませんね」
「……だとしても、きっといつか出会ってたと思う」
 高耶は確信に満ちた声で言った。
「運命って言うと、大げさかもしれないけど。そんな気がするんだ」
「……………」
 自分たちは、再び出会うことが運命付けられていたのだろうか。
 高耶がそう感じるのなら、そうなのかもしれない。
 だとしたら、この先に起こる出来事も、もうすでに運命付けられている?
「直江?」
 黙りこんでしまった直江の顔を、高耶が覗き込んでくる。
「……馬鹿みてーって、思ってるんだろ」
「まさか。思ってませんよ」
 微笑って、そう答えながら、直江は思う。
 未来が、すでに定められているというのなら。
(このひとが、傷つくようなものでないといい)
 自分はいい。どんな困難でも引き受けてみせよう。
 けれど、このひとの笑顔が二度と曇ることのないように。
 このひとが、心の平安と、真の幸福を手にすることを、願ってやまない。
(いや、願うだけでなく)
 自分が、運命の道筋をそちらの方へと向けてやらねばならない。
「もし、あなたと再び出会う運命になかったとしても」
 ステアリングを握りながら、前方へと視線をやった。
「私は、運命なんて捻じ曲げて見せましたよ」
「………直江」
 直江は高耶の視線を横顔に感じながら、ゆっくりと車を発進させた。
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