取りつかれている訳でも唆された訳でもない。
国領は気付いてしまった。
この少年は知ってしまったのだ。己と言う人間の本質に。気付く前の自分をタチバナヨシアキと呼んだのだろう。
驚愕どころの騒ぎではない。国領は眼の前の少年の行く末に、恐ろしささえ感じていた。この歳でこの境地に達する人間というのは、一昔前ならともかく、現代には中々いない。
(ものすごい息子を持ったものだ)
国領は、古くからの友人である橘の顔を思い描いた。
「こころの平静をえようとおもったら、わたしはわたし自身であることをやめなくてはいけない」
義明は少し、話題の矛先を変えてきた
「己であることをやめてしまったら、ひとはどうなりますか。生きてゆけますか」
「生命活動は続く。しかしそれを生きていると呼ぶべきかどうか」
「狂えるものなら狂ってしまいたい。そうおもうこともあります」
「己自身で在り続けることは辛い。それは誰もがそうだ」
「あなたも?」
「人は誰しも己と言う枠の中でものを考える。越えたと思っても、実はそこはまだ、己の範疇なのだ。それを私はひどく息苦しいと感じている」
「わたしの精神……魂はえいえんにとらわれつづける」
「そうだ……」
答えながら国領は名のある老僧と話している気分になって来た。
この問答は、まるで国領自身のことを問うているかのようだ。
国領は気付いてしまった。
この少年は知ってしまったのだ。己と言う人間の本質に。気付く前の自分をタチバナヨシアキと呼んだのだろう。
驚愕どころの騒ぎではない。国領は眼の前の少年の行く末に、恐ろしささえ感じていた。この歳でこの境地に達する人間というのは、一昔前ならともかく、現代には中々いない。
(ものすごい息子を持ったものだ)
国領は、古くからの友人である橘の顔を思い描いた。
「こころの平静をえようとおもったら、わたしはわたし自身であることをやめなくてはいけない」
義明は少し、話題の矛先を変えてきた
「己であることをやめてしまったら、ひとはどうなりますか。生きてゆけますか」
「生命活動は続く。しかしそれを生きていると呼ぶべきかどうか」
「狂えるものなら狂ってしまいたい。そうおもうこともあります」
「己自身で在り続けることは辛い。それは誰もがそうだ」
「あなたも?」
「人は誰しも己と言う枠の中でものを考える。越えたと思っても、実はそこはまだ、己の範疇なのだ。それを私はひどく息苦しいと感じている」
「わたしの精神……魂はえいえんにとらわれつづける」
「そうだ……」
答えながら国領は名のある老僧と話している気分になって来た。
この問答は、まるで国領自身のことを問うているかのようだ。
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