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『 自分らしく 』≪≪    ≫≫『 台風 』   
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 戻ってきたホテルの部屋で、直江が何やら机に向かっている。
「手紙?」
 いつの間に買ったのか、観光地によくあるような、
お土産用の絵ハガキがその手にあった。
「家族ぐるみでお世話になってる方なんです。
旅先からの手紙をすごく喜んでくれる方で」
「へえ」
 直江は内ポケットから万年筆を取り出して、
スラスラと文面を綴り始めた。
 文面を見るのはどうかと思ったのだが、
直江の書く字があまりにも整っていたので、見入ってしまう。
「?」
───だと思いました。大切な人と旅をするのは、ほんとうにいいものですね。そういえば───
「なあ」
「はい?」
「大切な人って何だよ」
「気に入りませんか?」
「いや、そーじゃなくてだな」
「主人と書くわけにもいきませんしね」
「まあ、そーだな……」
 微妙な違和感を感じつつも、納得してしまう高耶だった。
 

 □ □ □


 文字は人をあらわす。
 高耶の字は、大雑把なように見えて意外と繊細だ。
 書く人間と同じ、素直じゃない字なのだ。
「見おわったら返せよ」
 直江の手には、千秋からの急な電話に高耶が慌てて書いたメモがある。
 これから行く先の住所が書かれている。
「何、笑ってんだよ」
「いえ。あなたらしい字だと思って」
「どーせ歪んでるとかって言いたいんだろ」
 そう言いながら、メモを取り返そうとボクサーのように手を繰り出す。
「そんなこと思ってませんよ」
 直江は取り返されぬよう、高耶の手が届かない高さまで手をあげた。 
「私は、好きですよ」
 高耶の顔を見つめながら言ったものだから、
思いのほか感情がこもってしまったようだ。
「……お前に好かれても何の徳にもなんねーよ」
 そう言いつつも、まんざらでもない顔だ。メモを取り返すのは止めたらしい。
 本当に素直ではない。
「そこが、いいんですけどね」
 呟くように言うと、なに?と聞き返された。
「いいえ。筆跡心理学って知ってますか」
「きいたこともねーな」
「筆跡から書いた人物の心理を分析するんです。やってみせましょうか」
「いーって」
「そうですねぇ、この文字を書いた人物が何を考えていたかというと………」
 胡散臭そうな顔している高耶の横で、
直江は軽く唸ってみせてから、もっともらしく言った。
「"お好み焼きが食べたい"」
 高耶は目をぱちくりさせた。
 実はホテルに戻ってきた際、向かいのお好み焼き屋から漂う匂いに
高耶が鼻をヒクつかせていたのを、ばっちり目撃していたのだ。
「当たってんじゃん」
「でしょう?」
 声をあげて笑う高耶に、直江も満足気に微笑み返した。
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