「今日、千秋修平の誕生日なんだわ」
千秋が、何気なく高耶に言ったとたん、高耶は大爆笑を始めた。
「いや、嘘じゃねえよ?」
今日はエイプリルフールだ。
念のためにそう言うと、
「わかってるって。さすがにそんな、小学生みたいな嘘はつかねえだろ」
そう言いながら、まだ爆笑を続けている。
「いやあ~~、お前らしいわ。誕生日も嘘くさいなんてな」
肩をばしばしと叩きながら、牛丼でもおごってやるよ、などと言って来る。
「……いらねえよ」
半眼で突っぱねた千秋だったが、結局は放課後、大盛りで二杯もおごらせた。
その帰り道。
(おおおっと?)
天からの粋な誕生日プレゼントか、メモ用紙を手にしきりに辺りを見回しているきれいなおねえさんに出くわした。
千秋はすかさず声をかける。
「どうかしました?」
「えっと、ここを探してるんですけど……」
「ここはですね、えーっと……」
紳士ぶった千秋が顎に手を当てつつ答えていると、不意に女性が叫んだ。
「ユリちゃん!ママから離れないで!」
すると、近くのケーキ屋でウィンドウを覗き込んでいた女の子が、タカタカと駆け寄ってくる。
(ち、子連れか)
とは思ったものの、もちろん顔には出さずに、
「こっちから行った方が近道ですよ」
と、にこやかに教えてあげた。
「わかりました、ご丁寧にありがとう」
女性もにっこりと微笑んでくれて、
「じゃあ、気をつけて」
爽やかに言った千秋は踵を返す。
「ねーねー、ケーキ買って行こうよう」
「そうねえ……」
背後から聞こえてくる会話をなんとなく耳にしながらその場を去ろうとした千秋の腕を、何故か女性はぐいっと掴んで引き止めた。
「あのっ!ごめんなさい!ちょっとだけこの子、見ててもらえます?」
「え!ちょっと……!」
止める間もなく、女性はケーキ屋に駆け込んでいく。
物騒な世の中なのに……。
(自分のような人間に、子供なんか預けちゃ駄目だろう)
それとも自分はよほどいい人間にみえるのだろうか?
飢えた狼そのものだと、自分では思うのだが。
うーん、と考え込んでいると、下のほうからかわいい声が聞こえてきた。
「おにいちゃん、目がね取ったらきっとかっこいいよ」
「……ありがとう」
褒められているにしては微妙な言い回しだが、一応礼を言っておく。
「およめさんになってあげてもいいよ」
「………あげてもいいよって」
千秋はしゃがみこむと、女の子と目線を合わせた。
「そういうときは素直に、お嫁さんにしてくださいって言ったほうがかわいいぞ」
たしなめるように言う千秋に、女の子はすかさず反論した。
「でも、ツンデレのほうがもてるよ」
「へえ……そーですか……」
時代は変わってゆくものだなあ……などと遠い目になっていると、女性が慌てて戻ってくる。
土産用の大箱の他に、小さな箱をひとつ、手にしていた。
「これ、甘いもの好きじゃなかったら申し訳ないんだけど、よかったら」
「───………」
偶然とはいえ、誕生日に貰うケーキに何だか変な因縁を感じてしまう。
千秋はありがたく受け取ることにした。
「じゃあね~」
「ありがとうございました」
手を繋いで去っていく母子を見送って、予想外のプロポーズと誕生日ケーキを土産に、千秋は帰途についた。
千秋が、何気なく高耶に言ったとたん、高耶は大爆笑を始めた。
「いや、嘘じゃねえよ?」
今日はエイプリルフールだ。
念のためにそう言うと、
「わかってるって。さすがにそんな、小学生みたいな嘘はつかねえだろ」
そう言いながら、まだ爆笑を続けている。
「いやあ~~、お前らしいわ。誕生日も嘘くさいなんてな」
肩をばしばしと叩きながら、牛丼でもおごってやるよ、などと言って来る。
「……いらねえよ」
半眼で突っぱねた千秋だったが、結局は放課後、大盛りで二杯もおごらせた。
その帰り道。
(おおおっと?)
天からの粋な誕生日プレゼントか、メモ用紙を手にしきりに辺りを見回しているきれいなおねえさんに出くわした。
千秋はすかさず声をかける。
「どうかしました?」
「えっと、ここを探してるんですけど……」
「ここはですね、えーっと……」
紳士ぶった千秋が顎に手を当てつつ答えていると、不意に女性が叫んだ。
「ユリちゃん!ママから離れないで!」
すると、近くのケーキ屋でウィンドウを覗き込んでいた女の子が、タカタカと駆け寄ってくる。
(ち、子連れか)
とは思ったものの、もちろん顔には出さずに、
「こっちから行った方が近道ですよ」
と、にこやかに教えてあげた。
「わかりました、ご丁寧にありがとう」
女性もにっこりと微笑んでくれて、
「じゃあ、気をつけて」
爽やかに言った千秋は踵を返す。
「ねーねー、ケーキ買って行こうよう」
「そうねえ……」
背後から聞こえてくる会話をなんとなく耳にしながらその場を去ろうとした千秋の腕を、何故か女性はぐいっと掴んで引き止めた。
「あのっ!ごめんなさい!ちょっとだけこの子、見ててもらえます?」
「え!ちょっと……!」
止める間もなく、女性はケーキ屋に駆け込んでいく。
物騒な世の中なのに……。
(自分のような人間に、子供なんか預けちゃ駄目だろう)
それとも自分はよほどいい人間にみえるのだろうか?
飢えた狼そのものだと、自分では思うのだが。
うーん、と考え込んでいると、下のほうからかわいい声が聞こえてきた。
「おにいちゃん、目がね取ったらきっとかっこいいよ」
「……ありがとう」
褒められているにしては微妙な言い回しだが、一応礼を言っておく。
「およめさんになってあげてもいいよ」
「………あげてもいいよって」
千秋はしゃがみこむと、女の子と目線を合わせた。
「そういうときは素直に、お嫁さんにしてくださいって言ったほうがかわいいぞ」
たしなめるように言う千秋に、女の子はすかさず反論した。
「でも、ツンデレのほうがもてるよ」
「へえ……そーですか……」
時代は変わってゆくものだなあ……などと遠い目になっていると、女性が慌てて戻ってくる。
土産用の大箱の他に、小さな箱をひとつ、手にしていた。
「これ、甘いもの好きじゃなかったら申し訳ないんだけど、よかったら」
「───………」
偶然とはいえ、誕生日に貰うケーキに何だか変な因縁を感じてしまう。
千秋はありがたく受け取ることにした。
「じゃあね~」
「ありがとうございました」
手を繋いで去っていく母子を見送って、予想外のプロポーズと誕生日ケーキを土産に、千秋は帰途についた。
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