見知らぬ生徒に殴られはしたものの、かわいい女子達が慰めてくれた。
人身事故を起こした(?)が、大事には至らずにすんだ。
家が全焼する火事で全財産を失ってしまったが、命だけは助かった。
ありえないくらい運の悪い事故に遭遇したが、数週間の入院だけですみそうだ。
松本市内の病院の一室で、千秋はぼーっと外を眺めながら考えている。
運がいいのか、悪いのか。
とそこへ、四百年来の同僚がやってきた。
「災難だったな」
見慣れたダークスーツ姿の直江は、何故かイギリス文学界の巨匠の翻訳本を手渡してきた。
見舞いの品だという。
「好きだっただろう?」
こういう本人でも忘れていることを、この男は本当によく覚えている。
「………懐かしいな」
男の気遣いに内心涙しながら、本のページをパラパラと捲っていると、直江は気の毒そうにギブスを見てきた。
「大丈夫なのか」
「………まあな」
いつもだったら人の心配をしている場合か、と言ってやるのだが、今回ばかりは返す言葉もない。
「厄年にはまだ早いだろうに」
直江は腕を組んで偉そうに言った。
「俺にうつすなよ」
「────……」
その一言で、千秋の感傷はどこかに吹っ飛んでしまった。
自ら災厄に飛び込んでいき、しかも絶対に周囲を引きずり込むことを欠かさない直江に言われてしまうとは。
千秋はがっくりとうなだれるしかなかった。
「……お前にだけは言われたくなかったよ」
人身事故を起こした(?)が、大事には至らずにすんだ。
家が全焼する火事で全財産を失ってしまったが、命だけは助かった。
ありえないくらい運の悪い事故に遭遇したが、数週間の入院だけですみそうだ。
松本市内の病院の一室で、千秋はぼーっと外を眺めながら考えている。
運がいいのか、悪いのか。
とそこへ、四百年来の同僚がやってきた。
「災難だったな」
見慣れたダークスーツ姿の直江は、何故かイギリス文学界の巨匠の翻訳本を手渡してきた。
見舞いの品だという。
「好きだっただろう?」
こういう本人でも忘れていることを、この男は本当によく覚えている。
「………懐かしいな」
男の気遣いに内心涙しながら、本のページをパラパラと捲っていると、直江は気の毒そうにギブスを見てきた。
「大丈夫なのか」
「………まあな」
いつもだったら人の心配をしている場合か、と言ってやるのだが、今回ばかりは返す言葉もない。
「厄年にはまだ早いだろうに」
直江は腕を組んで偉そうに言った。
「俺にうつすなよ」
「────……」
その一言で、千秋の感傷はどこかに吹っ飛んでしまった。
自ら災厄に飛び込んでいき、しかも絶対に周囲を引きずり込むことを欠かさない直江に言われてしまうとは。
千秋はがっくりとうなだれるしかなかった。
「……お前にだけは言われたくなかったよ」
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