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『 梅雨 』≪≪      
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明滅する外灯の下、高耶は少し曲がったタバコに火を点けた。
蒸し暑い夜で、小さな公園はむせかえるような緑の匂いが充満している。
その生命力に溢れた匂いは、高耶の記憶の底から様々な過去を呼び起こした。
まだ本当に小さかった頃。
前の家の庭で母親が手入れしていた草花の鮮やかさや、
父親に連れられて遊びに行った広場の芝生の感触。
思い出したくもないが……。
昔は、独りで時間を潰すことなどなかったと思う。必ず誰かが一緒にいたはずだ。
だって過去に、これほど孤独だった記憶がない。

 モノの匂いは魂の記憶までをも呼び覚ます───。

足りない、と思った。
欲しい、と思った。
力?強さ?優しさ?ぬくもり?
いや、もっと別の何か……。
この孤独と郷愁感を分かち合える……存在……。
(やめろ。妄想なんて)
自分があまりにもバカバカし過ぎて、みじめになってくる。
記憶を追うのをやめて、タバコを口へと運んだ。
「───ッ」
小さく口を開いただけなのに、さっき出来たばかりの傷が痛んだ。
煙と血の味が口内に広がる。
タバコの不味さを傷のせいにして、火も消さずにそのまま握りつぶした。
皮膚の焼かれる感覚に顔をしかめる。
その熱い手も、殴られた頬も痛かったが、
それ以上に軋んで悲鳴を上げる心を空っぽにしようと、高耶は目をつむった。
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