9月25日。
「高耶さん」
改札口を出るとすぐ、直江の声がした。
電話ではしょっちゅう話していたけれど、顔を見るのは約二週間振り。
まっすぐにこちらを見てくる直江の視線が照れくさい。
「よう」
挨拶の声も、何だかぎこちなくなってしまう。
が、直江の方はいつもと変わらない声で、
「行きましょう」
高耶を促すと、歩きだした。
「忙しかったのか」
「ええ、とっても。あなたを呼び寄せて、手伝ってもらおうかと思いました」
「今時の坊さんの所作なんて、わかんねーぜ、オレ」
しかしあまりに人手が足りない為に、橘家では長兄を駆り出そうという話し合いまで持たれたらしい。
「経を詠むのは何十年振りとかいうもので、さすがに断念しましたが」
まあ、不動産一筋人間の唱えるお経では、ご先祖様の霊魂も鎮まりようがないかもしれない。
苦笑いを浮かべる直江の横顔を、高耶は笑って見つめた。
「こっちです」
広い駐車場に片隅に停まるグリーンの車の扉を直江が開けて、高耶はいつもの通り助手席へと座る。
そして運転席側に回り込んだ直江は乗り込むなり、
「高耶さん」
待ちきれないといった様子で、高耶の腕を引いて抱き寄せた。
「………人に見られる」
「構わない」
直江は高耶を抱く腕に更に力を込める。
「───……」
高耶も手を、直江の背中へとまわした。
………何と言ったらいいのだろう。
心にあいていた穴が埋められていく感じ?ずっと不自由だった身体の部分がやっと元に戻った感じ?完全ではなかったものが、完全になったという満足感と充足感と快感。幸福感。
高耶がそんな感覚を抱いていると、
「………生き返る心地がします」
直江は静かに、そう呟いた。
「高耶さん」
改札口を出るとすぐ、直江の声がした。
電話ではしょっちゅう話していたけれど、顔を見るのは約二週間振り。
まっすぐにこちらを見てくる直江の視線が照れくさい。
「よう」
挨拶の声も、何だかぎこちなくなってしまう。
が、直江の方はいつもと変わらない声で、
「行きましょう」
高耶を促すと、歩きだした。
「忙しかったのか」
「ええ、とっても。あなたを呼び寄せて、手伝ってもらおうかと思いました」
「今時の坊さんの所作なんて、わかんねーぜ、オレ」
しかしあまりに人手が足りない為に、橘家では長兄を駆り出そうという話し合いまで持たれたらしい。
「経を詠むのは何十年振りとかいうもので、さすがに断念しましたが」
まあ、不動産一筋人間の唱えるお経では、ご先祖様の霊魂も鎮まりようがないかもしれない。
苦笑いを浮かべる直江の横顔を、高耶は笑って見つめた。
「こっちです」
広い駐車場に片隅に停まるグリーンの車の扉を直江が開けて、高耶はいつもの通り助手席へと座る。
そして運転席側に回り込んだ直江は乗り込むなり、
「高耶さん」
待ちきれないといった様子で、高耶の腕を引いて抱き寄せた。
「………人に見られる」
「構わない」
直江は高耶を抱く腕に更に力を込める。
「───……」
高耶も手を、直江の背中へとまわした。
………何と言ったらいいのだろう。
心にあいていた穴が埋められていく感じ?ずっと不自由だった身体の部分がやっと元に戻った感じ?完全ではなかったものが、完全になったという満足感と充足感と快感。幸福感。
高耶がそんな感覚を抱いていると、
「………生き返る心地がします」
直江は静かに、そう呟いた。
PR
月別 一覧