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 品出し中になんだか怪しい素振りのおじさんを発見して気に
していたら、目撃してしまった。
 陳列棚から缶詰を手に取ったおじさんが、それをそのまま
カバンに入れるのを。
 万引きだ。
 でももし違ったらどうしよう、と思う。
 万引きした振りをしてわざと捕まり、後から慰謝料を請求して
くる人がいると聞いたことある。
 店長を呼びに行きたいけれど、その間に逃げられてしまうかも、
とオロオロしていると、
「おい、あんた」
 買い物カゴを手にした男の子が私の背後からつかつかと歩み
寄って、おじさんの手をむんずと掴んだ。
「やめとけよ。いい年してみっともない」
 ゆっくりと振り返ったおじさんは、平謝りに謝りだした。
「す、すいませんっ、ほんの出来心でっ」
 ほっとした気持ちと、男の子への感服の気持ちがため息と
なって口から漏れた。
 学生さんにしてはちょっと幼い顔立ちで、まだ高校生だろうか?
 ここ最近、週末だけ見かけるお客さんだ。
「あの、ここではなんですから」
 私が声をかけると、ちょうど騒ぎを聞きつけた店長がやって
きて、男の子からおじさんを引き受ける。
 バックヤードへと向かう店長に私も来るように言われたけれど、
男の子がそのまま行ってしまいそうになったから慌てて呼び止めた。
「後日改めてお礼がしたいので、連絡先だけでも」
と言うと、当たり前のことをしただけだから、と言ってそのまま行って
しまった。
 その清々しい態度に、こちらの心まで洗われる思いだ。
 次に見かけたときは必ずもう一度お礼を言おうと決めて、
後ろ姿を見送った。
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 あとちょっとで休憩だ、と考えていたら、めちゃくちゃいい男が
レジに向かってやってきた。
 ペットボトルのお茶を置いて、
「パーラメントをカートンで」
と、こっちがドキドキしてしまうくらいの美声で言う。
 単なるサラリーマンにしては着ているものが高級そうに見える。
 職業を想像しながら、ブルーの長箱を持ってきて、
「以上でよろしいですか」
と尋ねたら。
「あと肉まん」
 いつの間にか現れた若い男の人が、隣からそう言った。
 一瞬、え?と思ったけど、これまたとてもいい男だ。
「あ、はい、おひとつでよろしいですか?」
「じゃあ、ふたつで」
 たぶん大学生くらいのその人が言う。
 会計額を告げて保温器から肉まんを取り出していると、
「さっき、もう入らないってお腹抱えてたのは誰でしたっけ」
「……ん?それって30分も前の話だろ?」
 そんな会話が聞こえてきた。




 バイトの子にレジを任せて、商品の整頓がてらお客さんの動向をチェックして
いると、先ほど買い物をした男性がまた戻ってきた。
 買い忘れかな、と思って見ていると、迷わず避妊具コーナーへ向かう。
 インターネットの普及により手軽に通販の出来るようになった昨今、こういった
夜の生活に関連した商品はどんどん売れ行きが悪くなっていた。
 そのせいで極力縮小せざるを得ないそのコーナーは、スタンダードなものより
変わったものを多く置いて、若い子向けの話題提供コーナーとなっている。
 けれど、同性の自分から見てもかなりいい男の部類に入ると思うその男性なら、
避妊具が急に必要となることもあるのかもな、と内心羨んでいると、こちらの
視線に気付いたらしく男性が振り返った。
「いらっしゃいませ~!」
 声を張り上げて誤魔化す。すると、
「おすすめなんて、ありませんよね」
と、男性から話しかけてきた。
 はあ、と頷きながら、大手メーカーの売れ筋商品を指し示す。
「これなんて人気ですけど」
 大きく数字の書かれたパッケージで、定番中の定番だ。
「じゃあこれにします」
 男性はそう言うと、一気に三箱を手に取った。
(え、そんなに!?)
と思ったのが顔に出てしまったようで、男性は苦笑いを浮かべて言う。
「資料用なので」
「はあ……」
 いったいなんの資料だろう?と思いながら、レジへ向かう男性を見送った。




「今日、会社の女性に、天○人の登場人物の中で誰が一番好きかと聞かれました」
「へえ………」
 二人の間ではタブーのようになっていた大河ドラマの話を、あえて高耶に持ち出してみた。
「あなたなら、誰を選びますか?」
 ちょっと考えてから、高耶は言った。
「謙信公」
 その手があったか!と直江は手を叩きたくなった。
「おまえは誰を選んだんだよ」
「………」
「自分か」
「………あなたにしました」
「………しました、ってなんだよ」
 仕方なくみたいで失礼だ、と高耶は不機嫌な顔で隣の部屋へ行ってしまった。




 橘さんは、先程からずっと動かない。
 口元に手を当てて何かを考えている。
 チャンスとばかりにその端正な横顔をじっくりと眺めた。
 こういう時の橘さんは、すぐ隣で大声をあげてもきっと気付かない。
 掃除機を5台くらいかけたって、火災報知器が鳴ったって平気かも
しれない。
 と、思っていたら。
  チャラララ~~~チャララ~~
 携帯電話が鳴りだして、橘さんはハッと我に返った。
(意外!)
 まさかケータイごときが、鉄の集中力を乱すとは。
「……はい……ええ……ええ、わかりました」
 聞いたことの無い着信音だった。
 もしかしたら特別な人なのかも、と考え当たって、興味深々で聞き耳を
立ててしまった。



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