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「何描いてんだよ」
 直江が手元のメモ用紙に何かを描いている。
「○ッキーですよ」
「ミッ○ー?」
(う、うまい……)
 誰がみても、あのかわいらしいネズミのマスコットだと言うだろう。
「……うまいじゃん」
「でしょう?」
 描きあげた直江は、はい、と高耶に紙を渡してきた。
「いらねえよ」
「……じゃあ、何故描いてたんです」
「落書きに意味なんかねーだろ」
と言ったら、難しいひとですねえ、と首を傾げられた。
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「何描いてるんですか」
 高耶が手元のメモ用紙に落書きを始めた。
「○ッキー」
「ミッ○ー?」
 どうみても、あのかわいらしいネズミのマスコットには見えない。
「……上手ですね」
と言ったらイヤミに取られたようで、高耶は無言で紙を丸めて捨ててしまった。
「本当ですよ」
「……いいよ、もう」
 その後しばらく、高耶は口は尖らせていた。




「あれ、フェラーリじゃない?」
「えええ?なんでこんなとこに?」
 HRが終わってもすぐに教室を出る必要のない帰宅部の生徒数名が、窓に張り付いて口々に何かを言っている。
 千秋はなんとなーく嫌な予感がして一緒になって窓辺へ立った。
 すると校門のところに、異様に派手な車が停まっている。
 やっぱりそうだ。
「あのバカ……。やることが極端すぎんだよ」
 振り返って、授業中からずっと机に突っ伏して眠ったままの高耶の耳元で怒鳴った。
「おーぎくんっ!」
「………あ?」
「お迎えがきてんぞ」
「………は?おむかえ?」
「いいから見てみろよ」
 千秋に言われるがまま外を覗いた高耶は、
「げえええええええっ!」
と奇声をあげた。


「直江!」
「高耶さん。お疲れさまです」
 のんきに挨拶をしてくる直江を、
「いいから、さっさと行くぞっ」
と急かして車に乗りこんだ。
 橘家のセカンドカー、フェラーリ・テスタロッサだ。
 確かにベンツもアレだったが、これではもっとアレだ。
 さっさと発進しろと命じながら、高耶は悲鳴をあげた。
「ったく、おまえはオレをどうしたんだよっ!」
「たまには、いいでしょう?」
 よくない、と怒鳴りたかったが、事情を千秋に聞いたから怒ることも出来ない。
 高耶が周囲に受けている誤解を、わざわざ解きにきてくれたのだ。
「いつも同じでは、飽きてしまいますし」
 そういう直江自身も、いつもの印象とはだいぶ違う。
 ダーク系のスーツではあるのだが、カラーシャツにタイはしておらず、いつものかっちりとした格好ではなかった。
(けど………)
 いつもの白シャツなら葬儀屋かヤクザ者で決まりだったのだが、これではますます正体不明になってしまっている。
 青年実業家というほどがっついた感じはなく、水商売人にしては爽やか過ぎる。
 もちろん学生には見えないし、サラリーマンにだってみえない。
「………なあ、今度は坊主の格好してこいよ」
と言うと、
「袈裟懸けでフェラーリ、ですか……?」
 とぼけ顔で言われた光景を想像してみて、高耶は笑える、と爆笑を始めた。
 直江はそんな様子を、微笑ましいとばかりに見守っている。
「昔のあなたは、そんな風に笑ったりはしなかった」
「………だからなんだよ」
「ずっと、笑っていて欲しいんですよ」
 直江は静かに言う。
「あなたの感情に触れるのはとても心地がいい」
 高耶は何て返事をしていいのか、とまどってしまった。
 そんな様子に気付いた直江は、
「感情を、溜め込まないで欲しいと言いたかったんです。私でよければいくらでも相手になりますから」
 取り繕うように笑って言う。
 だから高耶は、
「溜め込めるようにできてたら、ヤンキーなんてやってねーよ」
と、笑い返した。




「やはりか……」
『まあ、あいつも昔は深志の仰木とかいって有名だったみたいだから?ヤクザに送り迎えさせてるなんて噂が立ったとしても、自業自得だと思うぜ』
 どうしても高耶の言っていた噂というのが気になって長秀に電話をしてみたら、やっぱり直江がその筋の人間と勘違いされてしまっていたらしい。
「それで教師とも折り合いが悪くなっているのか」
『それでかどうかはわからんけどさ。とにかくアイツ、これでもかってくらい反抗的だからな』
 まるでそのことを楽しんでいるような口調で長秀は話す。
『どうしちまったのかね、景虎は。まるで怨霊大将に戻っちまったみたいだな』
「……………」
 確かに、冷静沈着、全ての物事の先行きを読んで判断を下していた景虎とは違う。
 すぐに感情的になるところは、出会った頃の景虎を思い出させなくもない。
(つまり、こういうことだ)
 記憶を封じた彼が感情的な性格だというのなら、冷静沈着な景虎はその感情を経験値で押さえ込んでいたということだ。
『直江?』
「……ああ。とにかく噂があまりに酷くなったら言ってくれ。俺が出向いて違うことを証明する」
 へいへい、過保護なこって、という千秋の軽口を聞きながら電話を切った。




「え、今から学校ですか?」
 調伏旅行を終えて松本へと送ってきたら、高耶が学校で降ろせと言い出した。
 時刻はお昼をとうにまわっている。
「しょうがねえだろ。出席日数、マジでヤバいんだから」
 旅行カバンに制服を詰め込んで来ていた理由がいまわかった。
「優等生は大変ですね」
 すかさず皮肉る直江を、高耶はもう怒ったりしなかった。
「………いい加減慣れたけど。あ、校門にはつけんなよ」
「どうしてです?」
「また、へんな噂が立ったら困る。ここでいいから」
 校門から随分離れた場所で車を停めさせた高耶は、後部座席の荷物を掴んで外に飛び出すと、じゃあな、と走って行ってしまった。
 いったい以前にどんな噂が立ったのか多少気になりつつも、直江は黙ってその後姿を見送った。



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