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『 合鍵 』≪≪    ≫≫『 バイク 』   
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 見慣れた玄関に入って後ろ手にドアを閉めると、高坂は大きく息を吐いた。
 シューズボックスの上に置かれた小さなトレイに鍵を入れて、靴を脱ぐとリビングへと向かう。
 今日も忙しい一日だった。
 現在の《闇戦国》は全国的に小康状態にあるとはいえ、伊達や北条、毛利、更には"斯波英士"こと織田信長、"六道界の脅威"こと成田譲の監視を怠るわけにはいかない。
 しかも、高坂個人で思うところがあって計画している事案もある。
 その細くしなやかな肩に乗せられた目に見えない重圧は、武田の重臣としての重荷だけではなく、この世界の行く末そのものなのだ。
 ほかにも、鵺達からの報告を聞いて指示を出すような雑務から、他の重臣たちと今後の方針の話し合い、信玄の元へと参じてのご機嫌伺い、自身の艶やかな黒髪と赤い唇を保つためのケア、友人であるカラスたちへのスマートなゴミの漁り方の指導(最近は随分上達した)、とにかく様々な用事をこなさなければならないのだ。
 心が休まる暇などない。
 愛用のトレンチコートを脱いでソファへ無造作に投げた高坂は、けだるげに髪を掻き揚げた。
 熱いシャワーを浴びたかった。
 そうして身体がほぐれたら、キッチンに置かれたあの家庭用ワインセラーの中から、一番高いワインを選んで開けてしまおう。そうすればきっと、拭いようのない疲れも癒えてくれるはず─────
「なにやってる」
 ところが、突然の無粋な一言で、高坂のハッピープランは水を差されてしまった。
 何ごとかと振り返れば、"小心者の狼"こと直江信綱が、怒りの形相で腕組みをしながら立っている。
「風呂に入ろうとしていたところだが」
「………何故お前は当たり前のように俺の家に入ってくるんだ」
「ん?ああ、挨拶がまだだったか。"ただいま"」
 下目使いでそう言ってやると、ブチッと堪忍袋の尾が弾ける音が聞こえた。
「さっさと自分の家に帰れっ!」
 ひどい剣幕で玄関を指差してくる。
 妄執を抱えて四百年もウジウジしていた人間とはとても思えない早ギレっぷりだ。
「遠いんだ、家は。甲府だぞ?今からでは新幹線もない。ホテルばかりでは宿代も嵩むしな」
「だったらカラスに寝床でも作らせろっ!」
 直江が大声で喚き散らすから、近所迷惑だぞ、とたしなめてやった。
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